現実はただただ虚しく
「先生うちの子の様子はいかがですか?」
「まだ現実と妄想の区別がついていないようですね。しばらく様子をみましょう」
「はい…」
伊織は病気だった。統合失調症、という最近ではあまり珍しくもない病気である。
律は伊織の作り出した妄想の人物の一人。
白衣の人…も精神科の先生と認識できていない。
人体実験をするマッドサイエンティストといったところだろうか。
病院とわかってはいるけれども。
「睡眠は十分とれてるのでしょうか?」
「点滴で相当の量の薬が入ってはいますがあまり芳しくないですね。
ただ先ほど鎮静剤を打ったところ落ち着いて眠りに入ったようです」
伊織の両親が見舞いに来ていた。まだ隔離室から出ることの出来ない娘のために。
「面会することはやはりまだ…?」
「そうですね。やめておきましょう」
伊織の両親は落胆をしたが納得し荷物だけを置いて病院を去ったのだった。
20歳の伊織。
仕事のストレスや対人関係、睡眠不足によって引き起こしてしまった誇大妄想が原因で
とある精神科病院に療養のために入院したのだった。
伊織は病院でも眠ってはいけないと無理矢理にでも起きていた。
そのうつらうつらな状態だったため更なる誇大妄想が引き起こされてしまっていたのだった。