2人だけでこの世界を生きていこう
ここは世界から捨てさられた
名もなき場所
一人の少女(伊織)と青年(律)のちょっとした物語
「律、私がいなくなったら寂しいと哀しいと泣いてくれる?」
律は一瞬きょとんとした顔をし読み耽っていた本を閉じ、膝枕をしてあげていた少女(伊織)のまたいつもの寂しがりの癖が出たのか、と思い
「ふむ。お前がもし俺の前から消えてしまったら俺は俺でいられなくなる。
そうなったら寂しいも哀しいもないかもしれないな」
と律は伊織の質問に淡々と答える。
「嬉しい事を言ってくれるじゃんか」
伊織は満足そうに答えた。
ここは生物から見捨てられた地
ここは伊織と律しか存在しない地
ここはここはーーー
律は再び本を開く。
「でもね、私は死を怖がったりはしない。だって死んだ後の事だってどうなるかなんて
解明出来てない。
自分のこの意識はどうなってしまうのかと、ある意味楽しみで仕方がないの。
まあ死に急ぐ事は勿論しないけどね」
そう言って伊織はそっと目を閉じる。
「伊織…まあ自殺願望や希死念慮がないみたいで安心したぞ」
「自殺願望はわかるけど希死念慮ってなあに?」
「簡単に言えば消えてなくなりたい。楽になりたい。などと思う事みたいだな」
「ふーん」
伊織は興味なさげに答える。
「私はねこの世界が愛おしいの。
律と私だけがいる世界が」
「そうか。まあそれが寂しさからくる好意だとしても俺は嬉しいがな」
「この気持ちは錯覚だって言いたいの?」
「歳も10ほど離れているしな」
「恋愛に年齢は関係ありませんってどっかの誰かが言ってた気がするけどねーー」
伊織は少しばかり不機嫌にもなりつつ
律の膝枕からは退こうとはしない。
「ちょっと前の映画で見た事ががあるんだけど
好きの反対は嫌いではなくって無関心って言っててでも
違う作品の小説だと好きの反対は無関心じゃなくやっぱり嫌いなんだってさー。
どっちが正しいんだろうね」
「考えるだけ無意味だろ。そんなの」
「そうかなあ。私は凄く興味があるんだけどなあ。あ、でも私の好きな人は律だからね!」
「はいはい」
「お前の方こそ俺がいなくなったらどうするんだ?」
「そうだなあ。嘆き悲しみ。消えちゃいたいかな。あ、これが希死念慮か」
「そうだな」
律はははっと声に出して笑った。
ーーーーぴぴぴ
そこで機械音が鳴り響く
「実験終了」
無機質なアナウンスが聞こえた。