発売記念SS:煌めく日々に感謝して……お肉!
なんてことない毎日を彩るのは、愛しい旦那様と美味しいお肉です。それだけで毎日がキラキラと輝くのです。
朝起きて、レオン様におはようございますと挨拶。
朝食はカリカリベーコンを五枚ほどお代わり。
お仕事に向かわれるレオン様をお見送りしました。
そう、これがなんてことのない日常。
「さて、差し入れの準備をしましょう」
「「はいっ!」」
一応、後援部隊の隊長を務めさせていただいているのですが、レオン様の妻としての屋敷の管理もありますので、騎士団には週二回程度の勤務としています。
今日は午後から訓練に参加するので、その際の差し入れを作ることにしました。
メニューは肉巻きおにぎりです。
厨房に向かい、昨晩からタレに漬け込んでいたお肉の確認をしました。
薄切りの牛肉が、しっかりと特製ダレに漬け込まれていました。
「これはいいものが出来そうね」
「ええ」
使用人総出で、俵型のおにぎりを百個握りました。そのおにぎりに、漬け込んだ薄手の牛肉を巻き巻き。基本は三枚。個人的には五枚くらい巻きたいのですが、料理長にそれは肉巻きおにぎりでなく、ただの『肉巻き』だと言われました。
肉巻き、いいですね。とてもいい。
「……今度、夕食に出します」
「お願いねっ!」
ふんふんと鼻歌を歌いながら、おにぎりにお肉を巻いて、フライパンでジュウジュウと焼き進めます。
流れ作業のようにしているので、最初に焼いたものは少し冷えてはしまいますが、保温性のある箱に入れているので、どうにか温かみは残ります。
「本当は熱々で食べてほしいのよねぇ」
流石に、訓練場で焼き網を持ち込むわけにも行きませんので、ぐっと我慢です。
「ごきげんよう」
「「ごきげんよう!」」
後援部隊の皆さんは、なぜか私の『ごきげんよう』を真似して挨拶します。初めは誰かが遊びで始めて、皆でくすくすと笑っていたのですが、いつの間にか定着してしまいました。
後援部隊には、王都から移り住んできた騎士さんが雰囲気掴みのために一時的に身を置いたり、女性が調理班として参加したりと、以前とは様相が少しだけ変わりましたが、やっぱり皆『お肉大好きメイツ』です。
「今日の差し入れは肉巻きおにぎりですよ」
「「うぉぉぉ!」」
ガッツポーズをしたり、ぴょんぴょんと飛んで喜んだりしている姿を見ると、作ってよかったなぁと笑顔になります。
「では、皆さま……煌めく日々とお肉に感謝して、いただきましょう」
「「いただきます!」」
「一人何個!?」
「二個だってよ!」
「あっ、これでかい!」
わらわらと集まって肉巻きおにぎりを選ぶ隊員たちを見ていましたら、少し遠くの方から足早に近付いてくる人たち。
攻撃部隊の方たちですね。
「クラウディア!」
「レオン様、ごくろうまさです」
「ん。今日は、肉巻きにぎりか。もらおう」
「レオン様のはこちらに」
他のより少しだけ大きくてお肉も多めにしているのは……直ぐにバレました。
「団長だけずるい!」
「ほんとだ!」
「かーっ、見せつけやがって!」
騎士たちやケヴィン様がブーブーと文句を言い出しますが、レオン様にはあまり響いてないようです。
「フッ。羨ましければ、結婚しろ」
そう言うと、レオン様は私の腰をクイッと抱き寄せ、こめかみにキスをしました。
周囲から、ブーイングと笑い声がどっと沸きます。
ちょっと恥ずかしいですが、これもわりと日常となりつつあります。
一団から少し離れた場所にレオン様と二人で座り、肉巻きおにぎりをパクリ。
「んっ、焦げ具合が完璧だな。ショウユが肉と米を綺麗に一体化させている。だが、いつもと少し違うような? 柑橘か?」
「はい! 漬けダレに少しだけライムを絞ってみました。まだまだ日中は暑いので爽やかに食べられるかなと」
レオン様が肉巻きおにぎりをぺろりと平らげて、美味しかったよと微笑んでくださいます。
これだけで、私の一日は煌めく素晴らしい日になるのです。
「クラウディア、ありがとう」
「レオン様も、いつも私たちを守ってくださって、ありがとうございます」
「ん」
さっ、午後からはしっかりと訓練して、夜にはまた美味しいお肉料理です!
―― fin ――