最終話:お肉お肉と言い続ける幸せな日々。
妊婦生活は、思いのほか充実していました。
レオン様がいろんな魔獣のお肉を持って帰って来てくれるのです。
ユニコーンのお刺身は……おそろしく美味しかったです。
どうやら東の国では魚類や馬をお刺身という生の状態で食べるらしく、鮮度や細菌などに気をつけなければいけないそうなのですが、ユニコーンに関しては浄化作用があるらしく、『世界一安心安全な馬刺し』とのことでした。
「うぅぅん、馬刺し……」
「またユニコーンが出たら食べられるから、我慢してくれよ?」
「はぁい」
サーコスという、蟹と蜘蛛の間の不思議な生物は、煮ても焼いても美味しかったです。
普通にでっかい蟹でした。ちょっと海老にも近く、とにかく見た目以外は、とても美味しい魔獣でした。
「うううぅぅぅん、焼き蟹……」
「ん、また沢を探してくるから」
「はぁい」
「取り敢えず、陣痛を食べ物を妄想してやり過ごすのやめねぇ?」
こめかみに青筋を立てたケヴィン様に怒られてしまいました。
「いや、呆れてるんだけどな? 何でそんなに食い意地張ってるのに、体重管理は完璧なんだよお前らは!」
私はあまり身にならないタイプだからだと思います。
レオン様はしっかりと運動しているからじゃないか?と雑に答えていました。
「あいたたたたた」
「はぁ、もぉ。早く産婆来てくれよぉ!」
レオン様に『触診は許さない、だが産婆が来るまで念の為立ち会え』とかいう恐ろしい命令とともに真夜中に叩き起こされたケヴィン様の叫びから四時間後、レオン様そっくりな男の子が産まれました。
髪の色も瞳の色もレオン様と一緒でちょっと羨ましいです。
「ありがとう。ふたりとも無事でいてくれて」
レオン様が金色の瞳を潤ませて、私と息子の頬にキスをくださいました。
名前は産まれてから顔を見て決めようと話していました。
「レオン様、お名前なのですが、『リオネル』でもよろしいでしょうか?」
色合いがレオン様と一緒だったせいもあるのでしょうが、見た瞬間に頭の中に『リオネル』という名前が出てきました。
「ん、リオネル――若い獅子か。良い名前だ」
どうやらレオン様も気に入って下さったようです。
「これからよろしくな、リオネル」
リオネルの頭をそっと撫でるレオン様は、父親の顔になっていました。
私もお肉お肉ばかり言ってないで、母親を頑張りましょう。
◇◆◇◆◇
「んーっ! 久しぶりの竜肉っ、おいひいぃぃ」
「ぼくもお肉たべる!」
息子――リオネルが二歳半になったときでした。
レオン様が神妙な顔をして、昔の約束を覚えているか? と聞いてきました。竜種の討伐に連れて行き、戦闘に参加させてくれるという、あの約束。
地竜が出現し、山で地震と崖崩れが起きているとのことでした。
「流石に危なすぎて、連れて行くのは見送りたい……」
――――それは確かに!
「うふふ、仕方ないですね。お肉、ちゃんと持って帰って来てくださいね?」
「ん!」
レオン様は力強く頷いたあと、恐ろしいほどの殺る気?に満ち溢れたオーラを出しながら、颯爽と討伐に向かわれました。
そして、翌日には地竜の素材をどっさりと持って帰って来てくださいました。
レオン様はニコニコなのですが、戦闘部隊と赤竜以来当たり前になった支援部隊の面々は、恐ろしく疲労困憊のボッロボロでした。
――――いったいなにが。
「俺、帰るからなっ!」
ケヴィン様が叫ぶように吐き捨てて、騎士の宿舎の方へとズンズンと歩いて行きました。
騎士たちが苦笑いしつつ、レオン様の解散命令を受けてからそれぞれの家や宿舎に向かって行きました。
「レオン様、また無茶をされたのですか?」
「……ちょっと急いだだけだ」
レオン様がそっぽを向いてそう答えるときは、指摘されて恥ずかしいとき。間違いなく、無茶をされたのでしょう。
明後日にでもケヴィン様から聴取必須ですね。
そしてお父様に情報を流してあげましょう。
お父様が隠していた職業を知ってからは、徐々に私も情報収集に協力することになりました。
お父様は最近は、レオン様の生態調べが楽しいようです。『彼は思ったより、愛が重い』とニヤニヤ笑っていました。
「クラウディアー? 肉を焼くぞー?」
「はーい!」
レオン様が料理長とシュラスコの準備を始めていました。
赤竜の時に、新鮮なお肉でのシュラスコをやりそこねたと私が悔やんでいたので、早速それのリベンジマッチをしてくれるそうです。
「リオネルを連れてきますね」
「ん!」
リオネルが産まれたときに良い母親になるぞー、とか息巻きましたが、二年半経っても、『お肉お肉』言い続けています。
そして、息子のリオネルも『お肉お肉』が感染してしまいました。
「んーっ! 久しぶりの竜肉っ、おいひいぃぃ」
「ぼくもお肉たべる!」
「ふふっ。ん、うまい」
「ひあわひぇでふ」
「ん、幸せだな」
きっとこれからも、皆でお肉お肉言って、幸せな毎日を過ごすのでしょ――――あ、料理長! 屑肉は捨てずに取っておいてくださいよ!? 竜肉でホイル包みハンバーグもやりたいんです!
―― fin ――
最後までお付き合い、ありがとうございました☆
お肉、もっと色々と料理してあげたかった!
もっとお肉ネタ集めに肉食べにいきたかった(それは違う)
楽しかった! おつかれちん! もっと読みたいよ!
完結祝いで入れてもいいかな? とか……
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ではでは、また何かの作品で!
(書くのを止めていたヤツは、新年からまた再開します)
笛路
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(締まらない……)