85:許されたい。
騎士兼医者のケヴィン様より、妊娠しているとの診断を受けました。 そして、レオン様には喜んですまないと言われてしまいました。
喜んでくださるのですね。
「クラウディア」
レオン様がソファの前に歩を進めると、スッと片膝を突きました。
金色の瞳が不安で揺れているように見えます。
「クラウディア」
「……はい」
「手に触れても?」
「っ!」
「ん、ごめん」
レオン様の言葉に驚いてしまい、ビクリと肩が揺れてしまいました。
動体視力が突き抜けているレオン様がそれを見逃すはずもなく、一瞬で申し訳無さそうな笑顔で謝られてしまいました。
「何を言っても、クラウディアに不信感を与えるだけだと思う」
「……はい」
レオン様が何度か深呼吸をされました。
それはわずかな時間でしたが、私にも冷静さを取り戻させてくれました。
「俺はこれからもクラウディアに愛を伝える。嘘偽りなく、俺の本心だ。信じてもらえない状況なのも分かっている。だから、今後はクラウディアの好きに生きて欲しい」
別居の方が良いなら屋敷を用意する。
実家に帰りたいのなら安定期に送り届ける。
私が安心して子どもを産める環境を全力で整える。そう言われました。
そして、時々でも良いから、子どもに関わらせて欲しいと。
「君たちを愛させてほしい。愛することをどうか許して欲しい………………クラウディア、君に……許されたい」
レオン様が金色の瞳から、透明な雫を零されました。
それはとても煌めいていて、あまりにも美しく、胸が苦しくなるほどの愛おしさでした。
「――――っ!」
気付いた時には、レオン様の両頬に手を伸ばし、グイッと引き寄せていました。
そこからは自然とお互いに唇を重ね、深い口付けをしてしまっていました。
「クラウディア、愛している」
「はい、私もです」
「っ!」
未だ床に跪いた状態のレオン様が、顔を真っ赤にして照れている姿を見て、私は何であんなにもこの人の心からの声を無視していたのかと驚くとともに、後悔しました。
「ずっと、意固地になっていてごめんなさい」
「いや。契約内容をひた隠しにしていた俺が悪い。クラウディアは不信感しか抱けないだろうと思うと……どうしても話せなかった」
「それは、お父様からの希望でもあったのですよね?」
「ん、だが……彼はたぶん、もうちょっと軽い感覚のような気がする」
――――確かに!
もう一度キスをして、お父様には次の里帰りの際にどえらい報復活動をしようと約束しました。
妊娠を告げられてから、今までの体調不良は悪阻だと知りました。
悪阻とは、何を食べても吐きまくるものだと思っていたのですが、どうやら私は食べないと落ち着かないタイプのようでした。
ケヴィン様にときおり健診してもらいつつ、相変わらずお肉三昧です。
熟成竜肉は、塊のままシュラスコにし、削ぎながら食べたのですが、踊りだしそうなほどのコクと深みがギュッと濃縮されていました。
新鮮な竜のお肉を超えるものはないと思っていたのですが、それを遥かに上回る美味しさで、どの種のお肉も熟成肉させたいと叫ぶほどでした。
レオン様から、料理長が過労で死ぬからやめなさい、と怒られました。
「ちぇっ」
「っはははは! ん、クラウディアは可愛いな」
仲直り以来、レオン様が甘々です。
今もニコニコ笑顔で頬にキスをされました。
仲直り、出来て本当に良かったです。





