81:契約結婚の内容を。
お父様がまさかの王族の弱みを握っているのは、いいとして。いえ、よくはありませんが…………。まぁ、いまはいいです。
なぜにレオン様はあそこまで悲観な感じだったのでしょうか?
そういえば、契約結婚の条項は私は知らないのですよね。
お父様にその件をお伺いすると、おそろしくバレバレな程に目を泳がされてしまいました。
「お父様?」
「あーっ、その、締切がね……差し迫っていてね?」
「そんなことは知りません。チャキッと話せ」
「クラウディアちゃん、怖っ。えーっとねぇ――――」
お父様いわく、私に家にいてもらって一向に構わないけれど、何なら嬉しいけれど、私が結婚する気がないのも恋愛する気がないもの、心配だったとのこと。
『狩猟民族』については、小説の資料集めや人間観察でたまに出向く夜会で真実は知っていたものの、私が食いつくだろうからとわざとそう話したということでした。
「レオン君のこともね、ちゃんと調べてたんだよね。とても良い青年だし、丁度いいかなって……」
契約の内容は、我が家側は『クラウディアに恋や愛に興味をもたせること』、『クラウディアの感情や態度の変化を逐一報告すること』、『クラウディアの希望があれば離縁すること』。
ヴァルネファー側は『王族の圧力を削ぎたいときに、手助けをすること』、『レオンに愛する者ができた場合は離縁すること』、だそう。
「そうですか」
――――そういうこと、なのね。
「つまりは、私たちは夫婦ごっこをしていただけなのですね」
「違う違う! クラウディア? 違うんだ」
「確かに、契約結婚でいいとは申しましたが。お父様にはここまで育てていただけて感謝もしていますが………こんなのは、あまりにも最低です!」
「クラウディア――――」
何も聞きたくなくて、お父様の執務室を飛び出しました。
私室に向かって走っていると、部屋の扉にレオン様が腕を組んで寄り掛かっていました。
「っ!」
慌てて踵を返そうとしたものの、レオン様のほうが素早くて拘束されるような勢いで抱きしめられてしまいました。
「離してっ……ください」
「泣いているのは……お義父上から聞いたからか?」
「っ! 泣いてないです。離して!」
「嫌だ」
レオン様がさらにきつく抱きしめてきました。そして、部屋で話したいと。
渋々と私室に案内すると、レオン様がソファに並んで座りたいと言われました。でも、嫌だったので、テーブルで向い合せでしか話したくないと伝えました。
「クラウディア、俺とは目を合わせたくない?」
合わせたくありません。見たら、もっと涙が出そうだから。
「クラウディア」
「馴れ馴れしく呼ばないでください」
「っ、クラウディア……契約結婚の内容を聞いたんだな?」
「はい。離縁してください」
こんなのって、酷い。
知ったからには、夫婦なんて続けられないです。
もう、恋も愛も知りました。
もう、充分です。





