80:お父様の職業。
お父様が慌てたように応接机の上とソファの上から、ものをどかしていましたが、横に避けた程度なので特に改善されるわけでもなく。
「後で侍女たちをこのゴミ溜めに派遣します」
「じっ、自分でするから! 最悪は執事にやらせるから!」
お父様がソワソワとしつつ、この部屋は入室制限しているから!と妙に焦っています。
「で、お父様って何か働かれていたりするのですか?」
「ど直球だね……」
「お父様相手に、駆け引きとか面倒です。人には言えないことを裏でやっているのですか? 工作員とか」
「ここここ工作員んん!?」
――――あら?
心底びっくりした顔をされてしまいました。
陛下の慌て具合からいって、後ろ暗い系の職業なのかと思ったのですが。
レオン様のあの反応も気になります。レオン様は明らかにお父様について言えない何かを知っている、といった感じです。
「いやぁ、普通に……。いや、まぁ、普通じゃないけど……恋愛小説家だよ」
「…………………………はい?」
脳内で『恋愛小説家だよ』がノンストップリフレイン。
乱雑に置かれた本などのタイトルを見ると、確かに小説などに資料として使えそうなものばかりでした。
もしや、冗談ではなく、本当に小説家なのでしょうか?
「なるほど、理解しましたが、理解不能です」
「どっち!?」
お父様の、女性に対しての夢現感は、なんとなく職業病なのでしょう。
そして、それだけならば納得なのですが、なぜに書簡のみで国王陛下があそこまで驚かれたのか。高価な素材であろう『逆鱗』から手を引いたのか。
「……えへ」
「何を照れてるんですか? 気持ち悪いです」
「辛辣なクラウディアちゃんも可愛いけど、お父様泣くよ!?」
「どうぞ」
お父様がしょんぼりしながら、いつ淹れたのか謎の紅茶を飲んでいました。クッキーを食べるか聞かれたのですが、それもいつのものかわからないので断固拒否です。
「ここで、ビーフジャーキーを食べるか聞いたら、被せながらに食べるって言うくせに」
お父様がぐぢぐぢと煩いです。それよりも本題に入らせて欲しいです。
「――――つまり、この国で一番有名だと言っても過言ではない、あの正体不明の小説家、だと?」
「うん!」
そこそこにいい年齢のおじさんの頷きは可愛くありませんね。実父ながら少し引きました。
そして、お父様の小説……読んでいました。見習い騎士の子たちに借りたもの、ほとんどお父様の小説でした。なんででしょうか……ときめきを返してほしいです。
「ちょ、酷くない!?」
お父様は、基本は恋愛小説家なのですが、依頼があれば何でも書くそうです。
冒険ものから官能ものまで。
「いやねぇ、陛下にはでっかい貸しがあるんだよねぇ」
「貸し?」
「うん。陛下の望むシチュでの官能小説を書いてあげたからね」
「…………」
「あれは恐ろしく売れなかったけどね! うははははは!」
お父様、大爆笑です。
てか、陛下は何をやってるんですかね?
「ちなみに王女の好みモリモリの恋愛小説も書いてあげたよ。こっちはそこそこには売れたかな?」
王族揃って、何をやってるんですかね?





