8:実感がなかった。
騎士団に向かうレオン様を見送り、昨日のあまり肉がどれくらいあるかの確認をするため、厨房に向かいました。
料理長からレオン様は、鴨のソテーにイチジクソースを掛けるのが好きだと教えていただきました。
「お昼はぜひそれにしましょう!」
またレオン様と楽しく食事がしたいので、レオン様が好きなものを一緒に食べたいのです。
騎士団の建物は辺境伯の屋敷の隣にありますので、余裕のある時期はお昼に屋敷まで戻ってこられることが多いそうです。
そして、新婚だからということもあり、「レオン様は絶対に屋敷に戻られますよ」と言われました。
それならば、ねえ?
「あぁ、イチジクソースか……」
――――あら?
お昼に戻られたレオン様と食堂でまたもや他愛のない話をしつつ、昼食をいただいていたのですが、メインが届いたとき少し声のトーンが落ちました。
「お好きだとお伺いしたのですが」
「あぁ……好きなんだが…………こうもずっと出続けるとな」
確かに。いくら好きでも毎回同じだとちょっとげんなりしますよね。
他にお好きなソースとかは何かないのでしょうか? そう思って伺ってみると、困ったような顔を返されてしまいました。
「え? もしや年中……!?」
まさかと思いつつも恐る恐る確認してみれば、レオン様がコクンと少年のように頷きました。ちょっと可愛かったです。
「では、今度また鴨が出るときは、新たなソースに挑戦してみませんか?」
「ふむ、新たなソースか。例えば?」
「そうですねぇ。私が好きなのはチョコソースや、メープルマスタードソースです」
オレンジソースソースや、ブルーベリーソース、バルサミコソースや、オニオンソースなんかもありますが、あえて言うならその二つでした。
レオン様はお肉に掛けるソースがそんなにあるのかと驚いていらっしゃいました。
私はお肉を最大限に活かすためにも、いろんなソースで味わいたい派閥なのですが、レオン様は料理長任せといった感じのようで、あまりあれが食べたいこれが食べたいと言ったことがないそうです。
――――もったいない!
なんともったいないことでしょうか。
良質なお肉が直ぐに手に入りそうな環境にいるのに!
「そうだわ!」
「っ!? ゴフッ……」
いいことを思いついた勢いのあまり立ち上がると、鴨肉を丁度口に入れていたレオン様がビクリと体をゆらして……お肉を喉に詰まらせかけていました。
「ゴホッ……食事中にいきなり立ち上がるのはやめなさい」
「はい、すみません」
せっかくお肉がたくさん食べれるところに嫁入りしたのに、危うく未亡人になるところでした。…………あら? 未亡人になれど、どのみちお肉はたくさん食べれますね?
「……クラウディア、口から漏れているぞ」
「あらら? 失礼いたしました」
「君と言う人は……面白い」
わりかし失礼なことを考えていたのですが、レオン様はなぜだか楽しそうに笑われていました。
「で、何を思いついたんだい?」
「あっ、そうでした! 今後なんですが、食事のメニューに少し口出ししてもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ。屋敷の奥のことは妻の君に采配は任せる」
レオン様が柔らかく微笑みながら言った『妻に任せる』という言葉で、本当に結婚したんだなぁと今更ながら実感しました。
いえね、初夜も済ませましたし、共寝もしていますが……その、触れ合いは初夜の時のみでしたし。それに、レオン様って夜遅くに眠られるようで、レオン様が主寝室に来られる前に、寝落ちしてしまっているんですよね、私。
そして、朝起きたら隣にレオン様が寝ている、という状態がこの二日ほど。
今日は、頑張って起きていようかしら?