79:お父様の執務室は――。
お父様からの書簡を受け取った国王陛下が、封蝋を剥がすと真剣な表情で読み始められました。
国王陛下のお顔から、みるみる内に血の気が引いています。ちょっと心配になるくらいに青白くなっていますが、一体何が書かれていたのでしょうか?
「謁見は中止する。逆鱗は私の勘違いだ。素材はこれまで通り、ヴァルネファー伯の裁量で可とする」
陛下が早口でそう言うと、王女殿下の腕をがっしりと掴み、引き摺るようにして退室されました。
「「……」」
全員がポカーンとなっていました。
「……どういうお手紙だったのでしょうか?」
「あー。気にするな」
レオン様はお父様の何かを知っていたものの、ずっと黙っていてくださったようです。
なんのためにかはわかりませんが、陛下の反応を見る限り、随分と大きな秘密のようです。
取り敢えず、謁見は終了したし、目録については二通り用意していたそうで、元来のレオン様の裁量の方でお渡しするとのことでした。
「戻ろうか」
「…………はい」
なんにもわからないままに、終わってしまいました。
なぜ私はこの場にいるのでしょうか?
なぜ私はここに来たほうがいいと言われたのでしょうか?
なんとなく、お腹の奥が重たくて気持ち悪いです。
馬車に乗ってもずっとそれが続いていて、レオン様が何やら話しかけてくださっているのですが、なぜかちゃんと聞き取れずに適当な相槌を返すことしか出来ませんでした。
実家に戻り、お父様の執務室へと向かいました。
侍女にレオン様を客間にご案内するよう伝えると、レオン様に手首をパシッと握られました。
「どこに?」
「お父様とお話を――――」
「俺もついて行くよ」
レオン様のお顔が少しだけ不安そうなものになっていました。
「親子で話させて下さい」
「っ、扉の外で待機するから。ついて行く」
「……嫌、です。…………レオン様?」
レオン様に掴まれている手首にズキリとした痛みが走りました。お顔を見上げると、先程よりも不安の色が強く濃くでていました。
「クラウディア………………」
名前を呼ばれたのですが、レオン様はそれ以上なにも言わずに、下唇を噛みしめるだけでした。
手首を掴む手から力が抜けたので、スッと腕を取り戻すと、とても悲しそうな顔をされてしまいました。
レオン様に背を向け、お父様の執務室に向かいました。
「……クラウディア、愛している。部屋で待つ」
「っ?」
後ろから聞こえてきたのは、悲壮さを弱々しい声に乗せたものでした。
早歩きでお父様の執務室に向かい、扉を殴り叩きます。
思っていたよりも、すぐに顔を出されました。
「やぁ、おかえりー」
「お父様、聞きたいことがあります。洗いざらい吐いてください」
「えぇ? うーん。まぁ、いいか。入りなさい」
お父様は執務室に人が入るのを嫌っており、掃除などは自分自身でされています。唯一中に入って良いのは執事だけでした。なので、私も実は初めて入るのです。
――――これは!
「汚っ」
「クラウディアちゃぁん!? 泣くよ!?」
お父様の執務室は……応接机の上には大量の本が積み重ねてありました。そして、ソファ上は脱ぎ散らかした服がこんもり。
執務机の上は、何かの本と乱雑に散らばっている何かの書類と図形を書いたメモのようなもの。そして、床はグチャグチャに丸められた、書き損じたらしき書類。
これを汚部屋と言わずして、なんと言うのでしょうか。





