78:謁見の間で。
案内されたのは、謁見の間。
荘厳というよりは、ゴテゴテしいというか目が痛い感じのきらびやかな広間でした。
そんな謁見の間の上座中央にドドーンと置かれている王座。そこに座るは……なんだか以前にお見かけしたときより、ふくよかで少し白髪が増えたような国王陛下。
――――あら?
明らかに十キロ以上は増えられているような?
「待っていたぞ」
「ご無沙汰しておりました」
「よい。で? 逆鱗は?」
「……」
開口一番で、逆鱗の事を言われてしまいました。
レオン様は出来るだけ渡したくなかったそうですが、これはちょっと無理な空気が出ていませんかね?
あと、陛下の斜め後ろに立っている女性が、どえらく鋭い目付きで睨み付けてくるのですが……手負いの野生動物的に。
確か王女殿下だったとは思うのですが、重要な夜会以外はほぼほぼ参加しないので、記憶が定かではありません。
「ハァァァ。逆鱗は、ゼルファー殿下が結婚祝いとして下さいましたが?」
――――溜め息!?
レオン様がものっすごく大きな溜め息を吐いて、まさかの拒否の姿勢を取られました。
国王陛下のこめかみがピクピクと動いているのですが、レオン様は完全無視でした。
「逆鱗という希少素材をか?」
「はい。何か問題が?」
「普通は献上品にすると思うのだがな」
レオン様がまたもや大きな溜め息を吐きました。
「私も妻も、それで構いはしませんが……ラングス帝国の王子殿下から下賜されたものだということを努努お忘れなきよう」
「………あぁ」
陛下が苦虫を噛み潰したようになった瞬間、斜め後ろにいた王女殿下が満面の笑みで前に出て来られました。
「逆鱗は、私の輿入れの際の装飾品にしますの」
「あぁ、やっと貰い手が見つかったのですね。随分と行き遅れていらっしゃいましたが」
レオン様、まさかの重低音で棒読み。
そして、王女殿下はまさかの恍惚とした表情。
――――マゾがいる!
希少な生物を見たときのような、なんとも言えない高揚感は、隣でニコリと微笑まれたレオン様のおかげで霧散しました。
なぜにこのタイミングで微笑みを?と思っていましたら、レオン様が懐からなにかの書簡を出して、陛下にお渡ししました。
――――あれは?
実家を出る際に、お父様がレオン様にお渡ししていたものとそっくりです。封蝋もそっくりです。
つまりは、お父様が用意していた書簡ということですよね?
内容は何が書いてあるのでしょうか?
というか、お父様は国王陛下に書簡を渡せるほどの人物とは、到底思えないのですが…………。





