77:王城に向かう。
ダンダンダンと、お父様の執務室の扉を殴り叩きました。拳で。
レオン様がちょっと引いていますが、これくらいしないとお父様は気付かないのです。
「お父様! こちらも時間が押していますので、ちゃっちゃか出てきて下さい!」
「クラウディアちゃん!? 早くない!?」
「急ぎましたので」
無精髭を生やし目の下に隈を作ったお父様が、執務室の扉の隙間から顔を出しました。
「あ、やぁ。君がレオン君か。噂に違わぬイケメンだねぇ。クラウディアは不自由なく――――」
「そういうのはいいです。レオン様、挨拶も終わりましたし、王城に向かわれて下さい」
「あ、うん。いや、俺は挨拶してないんだがな」
レオン様がお父様に対して恭しく礼をし、挨拶されました。レオン様、真面目です。
お父様は満足そうに微笑むと、王城に急ぎなさいと言い出しました。そして、私も妻としてついていくようにと。
「え?」
ついていくつもりは微塵もなかったのですが、お父様が『絶対に行ったほうがいい』と言い、私もレオン様も丸め込んでしまいました。
王城に向かう馬車に揺られる中、レオン様に本当について行って大丈夫なのかと確認しました。
レオン様の妻として、ついてくるのはもちろん大丈夫だとのこと。ただ、レオン様としては、王女殿下に目を付けられないか心配だったので、連れて行く予定ではなかったそうです。
「目を、付ける?」
「ん……なんというか…………王女は根性が悪い」
驚くほどに、歯に衣着せぬ発言でした。
レオン様は本当に王女殿下がお嫌いなようです。たしかに今までの経緯を聞いた限りでは、好意は持てないのでしょうが。
王族の意に反する行動をしたり、王族を蔑むようなことを言うと、『不敬罪』になるのでは?
「ん? あぁ、普通はなるな」
どうやら、レオン様は例外のようです。
王女殿下自身が、それを望まれ許可しているのだとか。
――――あら?
それってつまり、王女殿下はレオン様の素を見たくて暴言を許可したのでは?
王女殿下を喜ばせているだけなのでは?
もしくは、ものっっっっ凄い嗜虐嗜好とか?
「…………は?」
レオン様が右手で口元を隠すようにして俯かれました。
何やらブツブツと呟きつつ、時々何かを深く考えているようでした。
「あ、レオン様、王城に到着しましたよ」
「……ん、あぁ。うん」
何かを思案中のレオン様が、コクンと頷きながら馬車を降りてテクテクと歩き始めてしまいました。
「団長っ!」
「……うん」
「え、ちょっと!?」
着いて来ていた騎士が慌ててレオン様に声を掛けましたが、打てど響かずな状態です。
「奥様?」
「……あっ! 追い掛けますよ!」
執事に声を掛けられ、ハッとしました。
あのように深く何かを考え、周りが見えなくなるレオン様は初めて見ました。時々見ることができる、ちょっと幼い感じのレオン様です。
なんだか、とってもワクワクです。
何かが起こる予感がします。





