74:疲れ果てたレオン様。
本来、豚も鶏もハムは寝かせる時間などが必要で、一日から二日ほど掛るものです。が、ハムは使い勝手が良いこともあり貴族から一般市民まで大人気のため、様々な時短レシピというものも存在します。
「ということで、時短作戦です!」
手のひら二つ分の大きさで厚さは一センチ程度の竜肉の両面を、フォークで刺しまくって塩コショウと粉末にした香草を塗り込みます。
十分ほど放置していると水分がかなり出るのでしっかりと拭き取ってから、クルクルと円柱状に丸めます。しっかりと紐で縛り、ブイヨンに入れ、弱火でコトコト十五分ほど煮込みます。
ブイヨンから取り出して冷ましたら、紐をほどいてもよし、フライパンで少し焼き目を付けても美味しくなるはずです。
「はず?」
「はずなのです!」
なぜなら、レシピは知っているし、鶏では作ったことがあるのですが、竜のお肉では初めてなので。
「あ。王都には魔獣の肉は出回ってないんでしたね」
「ええ」
ヴァルネファー領で消費するには充分の量でも、王都まで浸透させるには狩り尽くすことになってしまう危険性があるそうです。
魔獣といえど、きちんとした生態系があり、殲滅してはいけないものもいるとのこと。そして、関係ないものを狩り尽くしたら、別の種がともに滅んだ、なんてこともあったそうです。
なのでレオン様は、国王陛下の『装飾品や素材の希少性を高めるためにも魔獣の存在を隠したい』という思惑に乗っかる形を取っているのだと教えていただきました。
料理長に竜ハムの準備を任せて、私はお風呂に入ることにしました。明らかに汗臭かったので。
遠征では仕方ないことだとしても、淑女としてはちょっといただけないなと思いました。
さっぱりとして主寝室に向かうと、レオン様が騎士服のままでベッドに眠っていました。掛布も捲る余裕がなかったようで、うつ伏せで斜めにダイブしていました。
ちらりと見えるお顔は、少年のような穏やかなものでした。
――――可愛いです。
どいせぇぇぇ! とレオン様をひっくり返して、ジャケットだけでも脱がそうと思いましたら、既に半分くらいは脱げかけていました。
どうやら、ベッドの前に立ちジャケットやシャツの前ボタンを外したところで気力が尽きたようで、ひっくり返したら胸筋と腹筋がドーンと御目見していたのです。
眩しいなぁと思いつつも、ついついレオン様の肌というか胸筋にそっと手を伸ばした時でした。
ガシッと手首を掴まれ「なかなか大胆な夜這いだな」と妖艶な笑みで言われてしまいました。
「え? へ? ちがっ――――」
弁明する暇もなく、グイッと腕を引かれて、私までベッドにダイブ。
レオン様はゴソゴソと上の服をすべて脱ぎ、私を抱きしめるとまた眠りに就かれました。
――――寝ぼけてた!?





