71:薄切り竜タンの塩レモン焼き
赤竜のタン料理ということで迷いましたが、薄切りで焼いて食べたほうが味がよく分かるかと思いました。
「舌は青いのね……元からかしら?」
赤竜の舌は真っ青でした。
これは血抜きしたせいなのか、元々なのか、ちょっと迷うところではありましたが、戦闘部隊の方々が元から青かったと証言してくださり、ホッとしました。
大きさは、体格の良い騎士よりちょっと大きいくらい、長さはレオン様の三人分くらい。これでは、がぶりとされたらひとたまりもないのでは……?
ただ、竜の牙は素材になるとのことで全て抜き取られているので、なんとなく残念な見た目にはなってしまっていますが。
早速、竜タンのトリミングを行いました。
なかなかに大変な作業でしたが、青い皮を剥いでしまえば、中はわりと普通のお肉の色をしていました。
そもそも、お肉の部分はちゃんとお肉色だったのですが、あまりにもな鮮烈な青さに、『もしかしてもしかするかも?』という不安がちょっとだけ生まれていました。
牛タンと同程度の大きさにスライスし、しっかりと炒めて、塩レモン液を掛けます。
塩レモン液は、塩こしょうにレモン汁と粉末のブイヨン。
四半世紀ほど前に開発されたこの粉末のブイヨンは、少しお値段が張りますが、こういった遠征でかなり重宝されています。持ってきていて良かったです。
「パンも焼き上がりました!」
荷物を減らすために、それぞれの不要食材は集めて具沢山スープと追加で無発酵の丸パンを作りました。
無発酵丸パンは少し硬いですが、スープに浸すととても美味しいのです。
「では、本部テントに報告お願いいたします」
「はいっ!」
料理は、赤竜の亡骸の側で行っているので、本部は少し離れています。隊の子が報告に走ってくれている間に、配膳の準備に取り掛かりました。
ゼルファー様はテントで食事を取られることが多いようなのですが、今回はみんなの反応も見たいとのことで、こちらに出向いていただけるようです。
「一番に食べていただくんですよね?」
「ええ、そうよ」
隊の一人が、少し緊張したように聞いてきます。
どうしてかと思いましたら、毒見などはいらないのかと心配しているようでした。
それもそうね、と思ってひょいとひとつまみ。
「っ――――」
「た、隊長!?」
竜タン、恐ろしいです。
鼻腔をくすぐる芳醇な香ばしさ。
歯ごたえがあるのに、なぜか溶ける肉。
塩レモンとの相性は恐ろしく良く、酸味のおかげもあり、いくらでも食べれるのでは!?と思えてきました。
「――――おいしぃぃぃぃ!」
「「なんだ」」
「ははははは!」
笑い声が聞こえたので、ハッとそちらに視線を向けましたら、大笑いしているゼルファー様と、ちょっと呆れ顔のレオン様がいました。
「も、申し訳ございません」
「よい。ほんとうに面白い夫人だな」
ゼルファー様がニヤリと笑いながらレオン様を見ると、レオン様は苦笑いになってしまいました。
なんだかとても恥ずかしいのと、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになりました。





