70:ポケットブレッド(ピタパン)
予熱でじっくりと火を通した赤竜のブロック肉。
薄くスライスすると、中が赤とピンクの間くらいの色に染まっていました。
――――成功ね。
手の込んだ朝食、それは、ローストドラゴンポケットサンド。
焼いたあとの肉汁と玉ねぎとワインと醤油でソースも作りました。
「ローストビーフならぬ、ローストドラゴンですか」
「ええ。この肉質なら、絶対に美味しいと思うのよね」
「「たしかに」」
他にもポテトサラダサンドや、スクランブルエッグサンドも用意します。
パンはポケットブレッドをフライパンで大量に焼いてもらっています。二次発酵等が必要ないうえに簡単な材料で作れるので、遠征にピッタリなのです。
ローストドラゴンなどを半月型に切ったポケットブレッドに詰め込めば、完成です。
「ぬぁんだこれ! うめぇ!」
そこかしこで討伐部隊の騎士たちが、唸りながらポケットサンドを食べています。好評のようでホッとしました。
レオン様たち指揮の方々もポケットサンド片手に談笑しつつ、今日の予定を決められていました。
支援部隊はもちろん、戦闘部隊も協力してくださり、赤竜のお肉はある程度の大きさに捌かれました。
あとはそれぞれで分配し、後片付けを正午には終わらせる、とのことでした。そして、お昼を食べてからヴァルネファー領は近隣の町や村に配りつつ、屋敷に戻るとのことです。
「タンはどうする? もらうか?」
「いただけるのであればっ!」
ラングス帝国ではタンはあまり食べないことと、そもそも竜の舌は食べたことがない、とのことでした。
それならば、ぜひいただきたいです。
「食べれるか、美味いかは、わからないんだが?」
「新たな発見になるかもしれないではないですか」
「ふむ、たしかに」
ゼルファー様が悩んでいるような表情になられたので、ではお昼にタンを焼いて食べてみましょう、と提案すると、神妙なお顔で頷かれました。
「夫人の手料理はなかなかに素晴らしい。楽しみにしている」
「ありがとう存じます。恐悦至極にございます」
褒めていただけたので、カーテシーでお礼を伝えると、そこまで堅苦しくしないでいいと苦笑いされてしまいました。
「では早速、タンの下処理に向かいますね」
浮き足立ちそうになるのをぐっと堪え、竜の頭へと向かいました。





