66:サイコロステーキ。
オムレツを作りつつ、ステーキの指示。
赤竜の腕肉をサイコロ状にし、コショウを振っておきます。塩は焼く直前に振ると、水分が奪われずにジューシーな仕上がりになります。
腕肉は柔らかい部位と硬い部位が入り混じっているので、どの部位がどれくらい食べれるかは、運しだいです。
たまにはそういう食べ方も楽しそうだなと思ってサイコロステーキにしてみました。
「皆様、そろそろステーキが焼き上がりますよー!」
お皿にオムレツとステーキを盛り、カップにテールスープを入れて、取りに来た騎士たちに渡していきます。
「おかわりもありますからね?」
「「はひっ!」」
騎士たちがにこにこ笑いつつ、声をひっくり返していました。
きっと、頬が落ちると噂の赤竜のお肉を目の前に、口腔内がよだれで大洪水なのでしょう。
だって、焼いている匂いだけで、私のお腹が悲鳴をあげていますから。
早く、食べたいですが、職務を全うしてからです!
オムレツが大半に行き渡ったところで、レオン様が一緒に食べようと声をかけてくださいました。
皆は立ち食いだったり、思い思いの場所というか地面に腰を下ろして食べていますが、レオン様たちはラングス帝国軍の本部テントの中で食べられるそうです。
支援部隊の面々をチラリと見ると、ゆっくりしてきていいと言われました。
少し迷ったのですが、上司がずっと近くにいても気が抜けないだろうと思い、言葉に甘えることにしました。
「んっ! ふむむむむっ!?」
「うん、美味しいのは分かった。しっかりと食べてから喋りなさい」
「ふぁい」
匂いで、わかっていたのです。
絶対に美味しいと。
言葉では表現できない、本能にダイレクトに訴えかけて来るような、上質なお肉の匂いなのです。
一つ目のお肉は、口に含んだ瞬間にほろりと蕩けて消えました。
二つ目のお肉は、サクッとした歯ざわりのあとに、蕩けて消えました。
騎士たちがお肉を食べながら「あぁぁぁぁ、この感覚……まじでやばい」とかなんとか言っていた意味がわかりました。
これ、『まじでやばい』です。
「味は、牛に近いのですね。いえ、口当たりは遥か遠くにあるのですが、どの動物かと言えば……牛、ですかね?」
「んー? 竜?」
何でしょう……レオン様の意見が正しいのですが、なんとなく同意が欲しかったところでした。
取り敢えず分かったこととしては、竜のお肉は蕩ける、ということでした。





