65:竜の卵は食材。
赤竜を解体している間に、どんどんと日が沈んで行きました。
解体を始めてすぐに、持ってきていた大鍋に竜の骨の細い部分と、尻尾のお肉を入れて、玉ねぎや香草とともに煮込んでいました。
解体はまだまだ続いていますので、調理担当である私と数人で、ステーキとオムレツを作ることになりました。
竜の卵をどうやって割ったらいいのかと悩んでいましたら、レオン様が剣で斬ろうか? と申し出てくださいました。
卵を割ったとして、腰辺りまである卵の内容量をどうにか出来るお鍋などなく、どう扱えば良いのかと悩んでいたので、レオン様の提案で打開策を思いつきました。
蓋を開けるような形で斬ってもらい、卵白を少し減らして卵の殻を容器にしてしまえば良いのでは!?
少し……と言っていい量かは微妙ですが、取り除いた卵白はテールスープに入れてアク取りに使えますし、丁度いいです。
地面に三十センチほどの深さの穴を掘り、そこに竜の卵を設置。
そして、レオン様が剣を横に一振り。
剣を払う音以外は何も聞こえなかったので、卵の上部が切れていたことにとても驚きました。
見事なほどに水平かつ真っ直ぐな切れ口です。
ちょっと溢れてしまった卵白に、心のなかでごめんなさいと言いつつ、コトコトと煮詰められているテールスープに卵白を移しました。
「卵白が固まったら、取り除いてくださいね」
「はい」
テールスープは調理班の一人に任せ、私は卵をかき混ぜ、オムレツの準備をすることにしました。
卵の中を覗くと、ありえないほどの大きさの卵黄が見えました。
「凄い……」
巨大なフライパンで目玉焼きをする、というのもなかなかに夢があります。が、残念なことにそんなフライパンはここには無いので、グッと我慢です。
煮沸した木の棒で卵黄をブスッと刺し、卵をぐるぐるとかき混ぜます。少しだけ罪悪感があるのは、『竜の卵は受精卵のみ』ということを知ってしまったせいでしょうか。
孵化してしまうと大変だからこそ、食べてしまえとなったのでしょうが。
なんとなく、自分が女性であり、いつか自身の体に起こるであろう変化などを考えると、少しだけ感傷的になってしまうのかもしれません。
「さて、良く混ざりましたね。ボウルに移して少しずつ味付けをしていきましょう」
味付けはシンプルに塩コショウですが、卵ごとですと量が多すぎて分量が分からないので、ある程度見慣れた分量にして味付けする必要があります。
せっかくの卵なので、少しでも無駄や失敗はしたくありませんから。
本来はバターで焼きたいのですが、流石に持ってきていなかったので、竜肉の脂身で焼くことにしました。
温めたフライパンに竜の油を引き、卵を流し込む。
ジュワジュワと小気味いい音を出した瞬間に、ヘラでぐるぐるとかき混ぜます。
卵液が緩いうちに混ぜ、緩いうちに混ぜ止めないと、ボソボソのスクランブルエッグのようになってしまいます。
フライパンの縁の卵が固まりだしたら火から下ろし、手前側から折りたたむように形成し、ひっくり返します。
裏面を強火にかけて表面のみを焼き固めたら、フライパンの上を滑らせお皿に乗せます。
大切なのは、表面だけを焼くこと。
中は柔らかめ。
オムレツはふわトロでなければいけないのです。
「さぁ、全員分を大急ぎで作るわよ!」
「「はいっ!」」





