62:解体作業を始めましょう。
天を仰いだまま無言になったレオン様の袖をツンと引くと、ハッと正気に戻られました。
「すまない。余韻に浸っていた」
――――余韻?
レオン様に軽く抱きしめられて頬にキスをされました。そして、「行っておいで」という柔らかな声。
赤竜のお肉の処理に向かっていい、ということでしょう。
「はい! 行ってきます」
レオン様に大きなケガもないようですし、安心して赤竜のもとへ向かえます。
支援部隊の面々に、素材回収が終わったら私達の出番だと伝えると、皆の表情が明らかに興奮状態というか、ギラギラとしたものになりました。
支援の時は粛々と動いていた気がしますが……気のせい、ですかね?
「「もっと近くに行きましょう」」
「ええ、そうね」
皆で解体道具を抱えて赤竜の前に立ったのですが、諸々の不安が湧き出て来ました。
「あら? ……えーっと、解体……できるかしら?」
先程は興奮と心配が先に立ち、全く気付いてなかったのですが、冷静になって赤竜を見ると、大型の獣用の解体道具でどうにかなるサイズではないことに気付いてしまいました。
取り敢えず、ラングス帝国軍の方々が素材採取しているのを眺めていましたら、本部の方に向かわれていたレオン様が戻って来られました。
「待たせたな。剣を研いできた」
「へ?」
ニカッとレオン様が笑われているのですが、意味がわかりませんでした。なぜに既に絶命している赤竜に対して剣を構えていらっしゃるのでしょうか?
「ん? 解体するためだが?」
「へっ!?」
「お前たちでは、竜に登りつつ作業するのは大変だろう? 指示をくれればある程度の大きさにする」
――――なるほど。
先程、解体できるか不安になったのは、それもあったのです。竜に登れるのか、と。あとは普通に、解体用の大型ノコギリがサイズもですが、鱗を通らないような気がしていました。
「レオン様ー! 回収終わりました!」
赤竜の背中に乗っていたラングス軍の騎士がレオン様にそう呼び掛けると、レオン様が小走りでひょいひょいと赤竜の背中に飛び乗りました。
そして赤竜の背中の上で手を振り、「早く指示を」と言われてしまいました。
「で、では……肩の関節から切り落としていただけますかー?」
レオン様に向って叫ぶと、手で了承の合図をされました。
肩の少し上にあった大きな羽は素材だったようで、既に切り落とされています。これならば肩からが切りやすいでしょう。
……普通のサイズであれば。
赤竜は、腕だけで大人の人間五人分は余裕でありそうです。
「剣一本で、どうにか出来――――」
どうにか出来るのかと言おうとしていましたら、レオン様がピョンピョンと軽く垂直に飛び上がったり屈伸運動を赤竜の上でした直後、上段の構えから一閃。
身体を車輪のように縦に回転させたように見えた次の瞬間、ズズンという地響きとともに、赤竜の腕が地に落ちていました。
「剣一本で…………どうにか出来るのですね。騎士は」
「「普通は出来ませんっ!」」
支援部隊の皆が一斉に顔を横に振りました。
――――良かった、普通じゃないのね。





