61:念願の…………
ハラハラしたり、胃がキリキリしたり、どうにも落ち着きませんが、何度も深呼吸を続けます。
支援部隊として来たのです。職務は全うしなければ――――。
「殿下! ヴァルネファー軍レオン様が赤竜の両足の腱を斬りました」
「うむ。……ヤツなら次は腕をやるな。総員に伝達! レオンの援護を各隊交代で行え!」
「ハッ!」
レオン様が、戦っている。
それだけで胸と目頭が熱くなります。
胃がギュルッといったのは気のせいだと思いたいです。なぜこんな時にまで、私のお腹は反応するのでしょうか?
「私たちは私たちの仕事を全うしますよ」
「「はい!」」
耳をつんざく悲鳴のような、赤竜の咆哮が何度も聞こえました。そのたびに背筋がぞわりとします。
レオン様は、強い。
それはわかっています。
でも?
もしかしたら?
そんな不安を抱えながら、遠くに見える赤竜と騎士たちの戦いを見つめました。
何時間、経ったのでしょうか。
支援部隊の面々も交代で休憩しつつ、凍える手指に息を吹きかけたり、焚き火で少し暖めたりしながら、戦闘の行方を見守りました。
辺りが薄暗くなり、チラチラと雪が舞い落ち始めた時でした。
またもや炎が、ファイアブレスが吐き出されました。
ただ、今度は咆哮と同時に天に向かって。
「なんだあれ……」
「まだあんなブレス吐けるのかよ」
休憩していた面々がゆっくりと立ち上がり、赤竜の方を見つめます。
レオン様は二度ほど休憩に戻られましたが、どちらも五分ほど。あまり怪我等の確認が出来ませんでした。
――――レオン様。
胸の前で指を組み、寒さから来るのか不安から来るのか、よく分からない震えを誤魔化しながら、赤竜のいる方向を見つめました。
ワーワーと甲高い歓声が上がっています。
何かが起こったのだけしかわかりません。
今すぐレオン様の元へ、走って向かいたいです。
でも、我慢。
私はここの責任者ですから。
体の横でグッと拳を握りしめた時でした。
「――――ウディア! クラウディア!」
遠くからレオン様が私を呼ぶ声が聞こえました。
支援部隊員たちに「行ってください!」と言われ、近くに置いていた弓を担ぎ、なりふり構わず大股でレオン様の元へと駆け寄りました。
「馳せ参じました!」
「ブフッ。ん、ほら」
要塞のように大きかった赤竜が地に伏っし、いたるところから血を流して絶命していました。
近寄ると、未だに赤竜の体温を感じます。
――――いけない。
赤竜自身の熱で、お肉が傷んでしまいます。
早く解体作業に入らねばなりません。支援部隊の面々をここに呼ばねばならないのに、足が動きません。
「いま、ラングス軍が魔石と素材の収集をしている。その後に全隊員で解体作業に入る」
「……はい」
「クラウディア、竜種の肉だ。しかも、特上だぞ?」
レオン様が、なんとなく不安そうな表情で、私の顔を覗き込んできます。
それもそうでしょう。念願の竜種のお肉が目の前にあるのに、私はちょっと泣きそうな顔になっているはずですから。
「無事で、良かったです」
「クラウディア…………あー、いかんっ!」
急にベチンと聞こえたので、何事かとレオン様をみれば、右手で目元を押さえ、天を仰いでいました。





