6:健康的な人の朝食?
◇◇◇◇◇
『狩猟民族』こと、辺境伯家に来て四日目。
ただいま私は朝食を目の前に固まっております。
「どうした? 食べないのか?」
「い、いただきます」
目の前には、少量のスクランブルエッグ、リーフサラダ、バターロールが二個、コーンスープが並んでいます。
昨日もでしたが、少なすぎませんかね?
――――それに、お肉は!?
こんな少量かつ肉類も取らずに、どうやってお昼まで過ごせと?
チラリと見たレオン様は、特に不平も不足も感じていなさそうで、私に軽く微笑み掛けながらパンを食べられています。
ニコッと笑い返すと、更にニコッと笑い返されました。
何でしょうかコレ。
「足りないようだったら、給仕に欲しい物を伝えるといい」
「……はい。ありがとう存じます」
どうやら、まだ私の食事量が掴めていないので、とりあえずレオン様に合わせていたようです。
昨日は狩りの訓練に参加させていただけるという興奮から、朝食は気もそぞろで食べていたので、空腹はそこまで感じませんでした。
もし、これが毎日続くのなら、私は餓死してしまうかもしれません。
そもそも、レオン様はこの量で足りているのですか?
燃費が良すぎませんかね?
「っ、くくくっ」
急にレオン様が笑いだされました。
どうしたのかと聞くと、私が百面相しているのが面白かったのだとか。私、そんなに顔に出ていましたかね?
ちょっと恥ずかしいです。
「気にせず食べなさい。私は朝はあまり食べないんだ」
あら。レオン様って結構優しいんですのね。
お父様だったら『クラウディアちゃん!? ちょ、朝からそんなに食べたら乙女としてどうかと…………あ、はい、ごめんなさい』とかグダグダになる流れですのに。
壁際に控えていた給仕を呼び、追加を頼みました。
「パリッパリに焼いたウインナーを八本……あ、皮は割れてもいいので、パリッパリに。あと、薄切りのベーコンを少しクタッとさせた感じで焼いたものは五枚くださいます? 味付けは何もしなくて構いませんわ」
「っ――――え? あ、はいっ、直ぐに」
給仕が挙動不審になりながらも礼をして厨房に向かいました。
レオン様と、その斜め後ろにいる執事と侍女が、ぽかんとした顔で私を見つめてきます。
やっぱりちょっと食べ過ぎなのかしら?
頼んでいたウインナーとベーコンは、十分ほどで来ました。
焼き立てで、表面からは湯気が立ち上っています。
お礼を言いつつ、ウインナーをフォークでブスリ!
油が小さく弾けているようなジュワワワという音が損なわれないうちにガブリと噛り付くと、ウインナーの皮がパキッと弾けました。
口の中でスパイスがしっかりと利いたお肉が踊っています。
「んんっ! おいひい!」
ハフハフしつつ、お肉を咀嚼していて気付きました。
ここのウインナーは赤身の割合が多いようで、しっかりとした歯ごたえがありました。
ウインナーは、豚の赤身、脂肪、塩、胡椒が主な材料で、スパイスは領地や家庭によっても変わってきます。
我が領地は『赤身3:脂肪1』ですが、ここは『赤身6』くらいありそうです。
「こひらのウインナーは、どきょからか仕入れられているのでふか?」
はしたないと分かっていつつも、美味しいので咀嚼をやめられませんし、気になるから早く聞きたい、確認したい。
ついつい食べながら話しかけてしまいました。
レオン様が苦笑いしながらも、料理長の手作りだったはずだと教えてくださいました。
こちらの料理長、とてつもなく優秀な人材の香りがします!