54:ゴリラ。
お花摘みから、皆の集合している場所に戻りました。
「ここからは山登りになる。中腹まで行ったら休憩にする。食料の確保は支援部隊が道中確保するように」
「「はいっ!」」
戦闘部隊が装備以外に持っているのは、飲み物のみです。
私たちは支援部隊。彼らの予備の飲み物の運搬や食料調達から軽傷の手当がメインです。
酷い怪我は副団長のケヴィン様が診るようになっています。
「ケヴィン副団長、医師に見えないよな?」
「うん。なんで医師が剣持ってムキムキなんだ」
「こら!」
実は私も思ってはいますが、そういうことは口に出してはいけないのです。見習い騎士に注意をするとシュンとしていました。
チラリと見たケヴィン様は……濃い茶色の瞳を細めて、ニタリと嘲笑われていました。
――――あ、やはり聞こえていましたね。
ちょっとだけあの笑顔が怖いです。
山を登りつつ、鳥などを射ては急いで内臓を取り出して、走って戦闘部隊に追いつくという作業を繰り返していました。
急に横の茂みがガサガサと鳴り出し、見習い騎士たちが身構えていましたが、音の出し方が人間だったので注意深くそちらを見つめていると、レオン様がひょっこりと顔を出しました。
「ん、ちょうど良かった。ほら」
「はい?」
「食料の足しにするといい」
レオン様が後ろ手で引きずって来ていたのは、二メートル近いフォレストボア。猪の口が大きく開いて、巨大な牙が生えたような魔獣でした。
お肉は、臭みが少なく柔らかい。脂身は程よい甘さ――――なのですが、ヒョイッと渡される大きさではないし、先頭を歩いていたはずのレオン様がいつの間に横道に入っていたのかとか、色々と気になります。
「一瞬で消えたかと思えば! もうすぐ休憩場所に着くぞ! おら! 走れ!」
「いて」
副団長であるケヴィン様が走ってきて、レオン様のお尻を力いっぱい蹴っていました。『いて』じゃ済まなそうな音がしていたのですが? 騎士とはお尻まで鋼かなにかなのでしょうか?
「あ――――ありがとうございますー」
走り去るレオン様の後ろ姿に声を掛けると、後ろ姿のまま右手を頭の横でふるふると振られました。『気にするな』という意味なのでしょうが、またケヴィン様に蹴られています。今度は太腿を。
「仲良し?ですね?」
「ええ…………たぶん、仲良し?です」
取りあえず、大きなフォレストボアは、足首にロープが巻いてあったので、そのまま数人で引きずって歩くことになりました。
「団長、表情変えることなく一人で引きずっていたよな?」
「「うん」」
「どうやってだ?」
「「わかんない」」
はい、私も全くわかりません。
騎士のお尻は鋼で、腕力はゴリラ。心のノートにメモっておくことにしましょう。





