49:牛タンを味わう。
レオン様が恐る恐る牛タンステーキをフォークで押さえ、ナイフを入れていました。
「……凄い。スッと切れたが……なんでだ? サラダのはコリッとしていたのに」
ステーキに使ったのは、『タン元』と言う根元の部分です。舌の中でも運動量が格段に少ないので、脂がよく乗っていることもあり、かなり柔らかい部位になります。
軽く説明しつつ『はよ食え』くらいの勢いで勧めると、レオン様がくすくすと笑いながら牛タンステーキを口に含みました。
「っ? …………溶けた?」
ぽかんとしてるレオン様がちょっと可愛いです。
今回仕入れることが出来た牛タンはかなり質が良かったので期待していましたが、レオン様の反応を見るに、期待以上の美味しさのようです。
「甘い。肉というか、脂がまろやかでいて甘い……この甘さがレモンソースと相まって、驚くほどに美味い!」
「んむっ! 焼き加減もちょうどいいでふ。おいひいです」
「これは…………今まで見た目だけで判断し食べなかったことを後悔するくらいの美味さだ」
――――そこまで!?
レオン様が何やら盛大に感動していましたが、メインは今からなのですが……あら? 牛タンシチューのインパクト、大丈夫でしょうか?
ちょっとハラハラとしつつ、牛タンシチューの出番です。
運ばれて来ると、赤ワインとデミグラスソースの匂いがぶわりと鼻腔に飛び込んで来ました。
深皿の中には厚さ三センチほどの大きさの牛タンブロック肉がドーンと乗っており、とろとろになっているであろう少し小さめの玉ねぎが丸ごと一個、ジャガイモも丸ごと一個、ひとくちより少し大きめサイズの人参が二個。
「なんというか、視覚的な圧力が凄いな」
それはちょっと思いました。でも、野菜類はなるべく丸ごとのほうがいいんです。
理由は、食べればわかるとしか言いようがありませんが。
「ふむ」
レオン様が頷きながらナイフを握られたので、慌てて止めました。
「ぜひ。ぜひ、スプーンで」
「ステーキで柔らかい部位があるのは理解したが、スプーンでは流石に――――」
そう言いつつもスプーンを握るのだから、レオン様は本当に優しく……ちょっと素直すぎませんかね? と地味に不安になりました。
「――――スプーンが、通った」
「はい!」
しっかりと煮込んだ牛タンは、本当に凄いんです。ステーキもですが、牛タンシチューはそれ以上に溶けます。この感動をレオン様と共有したかったのです。
「っ……深みが凄いな。味が濃いというわけではないのに、濃い。いや、何を言ってるのかわからんな」
「うふふふ。わかりますよ」
味はさっぱりめにしているのですが、牛タンと野菜から滲み出た旨味がワインと合わさり、濃厚になるのです。
そして、その濃厚さを緩和させるのが、丸ごと野菜たち。
外側はしっかりと味がしみていて、中は柔らかく煮えてはいるものの、そこまでしみてはいないという絶妙な煮加減。
そんな野菜にシチューのルーを絡めて食べて、少しだけ口直し。そしてまたとろけるお肉を頬張るのがこれまた絶品な無限ループなのです。
「んっ………………ふうぅぅぅ。ん、美味かった」
恍惚としたようなお顔のレオン様が、満足したような雰囲気で小さくため息を吐いていました。
ちょっとセクシー過ぎませんかね!?





