46:拗ねたレオン
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クラウディアに他の女性と結婚できたんじゃないかと言われてしまった。
つまりは、クラウディアは俺が他の女性と結婚する想像をしても何も思わないということだ。
騎士団の団長室に戻り、ドカリとイスに座った。
「えらく不機嫌なうえに、早い帰りだな? また肉に嫁を取られたのか?」
副団長のケヴィンがにやにやとした顔で聞いてくる。
否定が出来ない。
クラウディアは……今は竜種しか見ていないところはある。
夫婦として徐々に仲を深めていたと思っていた。が、先程の反応を見る限り、少し疑わしくなってしまう。
「なんだよ、その顔は……」
どんな顔をしているのか、自分ではわからない。たぶん、情けない感じにはなっているんだろうが。
「クラウディアは、俺のことを好きじゃないのかもしれない」
「は? 惚気か?」
「違う! っ…………他の女性となぜ結婚しなかったのかと言われた」
「ぉ、おおぉぉ、それはなんというか……おおん」
ケヴィンの顔がなんともいえない残念そうなものになった。たぶん、俺も同じような顔だろうな。
そういえば、クラウディアから『愛している』と言われたことがなかった。『好き』はあったが……一回きりだった。
クラウディアに『愛している』と伝えたとき、頬を染めて泣いていた。あのとき、確実に喜んでいた。
だから、相思相愛なんだと思っていた。が、もしかしたら違うのか?
あの『好き』は何だったんだろうか?
「おい、自分の中だけで決めるなよ?」
「…………聞くのが怖い。愛されていなかったらどうすればいいんだ?」
契約結婚だからとか、仕方なしにとか、郷に入っては郷に従うとか、そういう感情だったら?
「それ、本気では言ってないよな? あの嫁は……まぁ、確かに肉への執着は異常だが、お前に対しての愛は確実にあるだろ」
ケヴィンにそう言われて、今まで見てきたクラウディアの様々な表情を思い出す。
いつだって、柔らかな笑顔を向けてくれている。
肉の話をすれば、目を輝かせて聞いてくれる。
ともに狩りに行けば、信頼を乗せた視線で見つめてくる。
おねだりするときは、何やらボソボソと呟きながら上目遣いにしてキメ顔を作って、成功したらガッツポーズをしている。
閨での顔は……絶対に誰にも見せたくない。
「好意は存在するのはわかっている。だが、『愛』はあるんだろうか?」
「直接的な言葉でしか理解できねぇの?」
「…………いや。うん。言葉として聞きたい、という俺のわがままだな」
ケヴィンと話して、自分がどうしてイライラとしたのかがなんとなく分かってきた。
子どものように拗ねていただけのような気がする。
「帰る」
「いや、仕事をサボんなや!」
「チッ…………」
「おい! なんで俺が悪者みたいな反応なんだよ!」
小うるさいケヴィンを無視して、書類へのサインや計画書の確認などを大急ぎで片付けた。





