45:牛タンとデリカシー
牛タンといえば、やはりシチューではないでしょうか。
丸ごとの玉ねぎと、丸ごとのじゃがいも、そして一口よりも少し大きめに切った人参とブロック状の牛タンをブイヨンとデミグラスソースと赤ワインで煮込む。
あとは、厚切りのステーキと、薄切り牛タンをサッと焼いてねぎ塩ダレをかけたもの。
牛タンのクズ肉をガーリックライスにするのもおすすめではありますが、流石に全部を同日に出すのはアレですので、明日か明後日くらいにしましょう。
「今日は、シチューと厚切りの牛タンステーキにしましょう」
「承知しました」
料理長とあれやこれやとお肉の話をしつつシチューの下拵え。
玉ねぎは皮を剥くだけですし、じゃがいもはしっかりと洗って芽があれば取り除くだけ。少し面倒なのは、人参を乱切りし、面取りを行うことくらいです。
ブロックの牛タンに塩コショウをし、具材とともに鍋に入れます。
はじめは強火でしっかりと火入れし、煮立ったら弱火にしてそこから三時間以上ゆっくりじっくりと煮込むだけ。
とても簡単です。
「アク抜きはしっかりと行ってくださいね。エグみが消えますので」
「承知しました」
お昼はスフレオムレツ、ひよこ豆とツナのパスタサラダ、野菜多めのコンソメスープにしました。
夜にお肉をたくさん食べるので、少しさっぱりめに。
「なんだかとてもいい匂いがする。ビーフシチューか?」
「うふふ。牛タンのシチューです」
「……あ。そう言えば仕入れたと言っていたな」
レオン様のお顔がちょっと曇りました。
牛タンの見た目がとても苦手だと言われていましたが、やはり『美味しい』という言葉のみでは、払拭は出来なかったようです。
「あの見た目のままで調理されているわけではないですよ!?」
「……うん」
あら、なんだか可愛い感じにシュンとして返事されました。
聞いてみると、私が美味しいと言っているのに否定するのは本意ではないが、あの見た目のせいで、どうにも肯定し辛いとのことでした。
レオン様って、本当に優しい人です。
なぜ今まで結婚に踏み切らなかったのでしょうか?
例え王女殿下に邪魔されていたとしても、私のような契約結婚の相手は稀にいたそうですし。ちゃんとお話すれば、相手の女性がレオン様を好きになることは間違いなくあり得ると思うのですが?
「うん。君にそういう事を言われたくはない」
「え?」
「好きな人から、他の女と結婚できただろうと、言われたくない」
「あ――――その、ご、めんなさい」
「…………ん」
レオン様はお昼の残りを黙々と食べ、視線も合わせずに「騎士団に戻る」とだけ呟いて食堂を立ち去ってしまわれました。
「やってしまいました…………」
レオン様が出ていかれたドアを見つめていましたら、侍女と執事が横に来て、温かい紅茶を出してくれました。
「大丈夫ですよ。旦那様は、拗ねているだけですよ」
「拗ね?」
「はい」
夕方戻られたら、ちゃんと話し合うことを勧められました。
デリカシーがなさすぎました。ちゃんと謝って仲直りしたいです。





