44:とある日の牛タン
竜種討伐の後方支援部隊の約束をしてから、日々は今までよりもさらに目まぐるしいものになりました。
見習いの騎士たちの訓練にときおり参加するようになり、何故か弓の指導までもするようになりました。
「そう。腕だけで弦を引いても、ブレるのよ。全身を使うことと呼吸が大切なの。さぁ、もう一度よ!」
「「はいっ、隊長!」」
少年と言えそうな子たちに、キラキラとした目で見られて、少しだけ罪悪感が湧きます。
ドラゴンのお肉目当てに、ごめんなさい、と。
しかも、隊長なんて大層な役職名まで。本当に申し訳ない気分です。が、お肉は欲しいので、ぐっと我慢です。
「あ! 隊長、ウチの母ちゃんが牛の舌は明日納品出来るって言ってましたよ!」
領主邸にお肉を卸してくれている肉屋の息子である見習い騎手のジョナスが、牛タン情報をくれました。
私が食べたいと言っていたので、ご両親に伝えてくださっていたそうですが、牛を絞めたときにしか出ないので、なかなかチャンスがなかったのです。
「明日ね! ありがとう、ジョナス」
「へへっ」
ジョナスが頬を染めて照れていました。
指導のたびに、私が『竜種のお肉が』と、ついつい言ってしまうものだから、騎士たちにはお肉が大好きなやつだとバレてしまっています。
でも、そのおかげで、今回のように牛タンが手に入りましたので、これで良かったのだと思います。
そんなやり取りがあった翌日、料理長から牛タンが届いたと連絡がありました。
大急ぎで厨房に向かうと、まな板の上にドーンと皮付きの牛の舌。
「まぁ! 大きくて色味も良い、美味しそうですね」
「…………いや、凄くグロテスクですが」
料理長も他のシェフたちも、かなりドン引きのようでした。確かに、皮がついたままなので、なんと言うか、完全に『舌を引っこ抜いた!』という見た目ではありますが、ここから下処理をすれば、食用のお肉といった見た目にはなると思います。
「とりあえず、皮を剥ぎましょう」
「そうですね」
先ずは、舌を裏返しにし、包丁で削ぎ落として行きます。
面を変えつつ、全体的に削ぎ落とし終わったら、水でしっかりと洗い、表面の血を落とします。
次に一時間ほど水に漬け、血抜きをします。
二回ほど水を換えてしっかりと血抜きをしましたら、まずはスライスをしていきます。
一センチほどの厚切りや、拳大のブロックなど、様々な形に切り分けて、下準備、完了です。
夕食は、牛タンづくしになるのかと思うと、ヨダレが今から流れ落ちそうです。





