43:約束をしよう。
レオン様が何やら決意表明をしているので、横から口をはさむか悩ましかったのですが、竜種狩りに置いて行かれた日には泣いてしまいそうなので、意を決して話しかけてみました。
「あの……」
「ん?」
首を傾げ、煌めくハニーブロンドヘアーが横に流れるよう演出。透き通った青空のようだと言われているくりっとした瞳を上目遣いにし、ぽってりとした桃色の唇はほんの少しだけ尖らせる。
――――よっし!
「竜種討伐の際は、後方支援も必要ですよね?」
流石に、本職の騎士様たちと肩を並べて討伐に参加したいとは言えません。そもそも、肩を並べられるなどとは一切思っていません。
レオン様と何度か狩りをして気付きました。
騎士様たちは確かに狩りもしますし、訓練に取り入れられていますが、本来は『討伐』をされる方たちなのです。
レオン様はいつだって安全確認と、確実に仕留めることを優先されていました。
今まではレベルでいうと初級といえる程度の狩りの対象でした。ですが、竜種は最上級といっても過言ではないと思うのです。
「人命第一で行動されるのは承知しております」
「……うん」
「対魔獣戦において、素人の私は邪魔以外の何物でもないのは理解しております」
ですが、竜種のお肉がっ……。
……竜種のお肉は、絶命したその場からどんどんと発酵が進んでしまうそうなのです。
辞典を読んだときに、白目を剥くかと思うほど驚きました。
竜種は、討伐したその場で素早く捌き、肉の持つ熱を冷ます必要があるとのこと。それをしなければ、肉は発酵ではなく、生煮えのような状態になり、腐ってしまうのだと。そして、血抜きも必ず行わねばならないそうです。
討伐に参加する騎士様たちは、命を賭して戦いに挑まれるのです。その直後に、そんな面倒な解体作業をお願いはできません。
なので、後方支援として、連れて行ってほしいのです。
「戦闘中はレオン様の指示に必ず従いますし、どんな雑用もいたします。なので、討伐後は、お肉っ…………」
「肉……」
本音がぼろりと漏れ出てしまいました。
「……討伐後の撤去作業の指揮は私に任せていただきたいのです」
「ふむ?」
「討伐には参加させられない見習いの騎士たちと竜種の撤去作業を行いたいと思っています。撤去作業に参加することにより、戦闘には参加できなくとも、竜に触れることで、少しでも知識や経験を得ることはできると思うのです!」
「……ふむ」
レオン様が顎に手を当て、考える仕草をされました。
胸の前で手を組み、ズズイッと前のめりかつ上目遣いで見つめ続けました。
「ぽろぽろと本音が漏れ出てはいるが、騎士団にとって、とても魅力的な提案なのは間違いない」
「っ! では!?」
「ん。約束しよう。竜種が出た際は、クラウディア指揮の後方支援部隊と、撤去部隊を編成しよう」
「レオン様っ! ありが――――」
「ただし!」
感謝を伝えようとしましたら、レオン様が張りのある声でそれを制止されました。
「ただし、絶対に戦闘には参加させない」
「……はい」
「クラウディアの狩りの能力は……かなり高レベルだ。たぶん隊に組み込んでも問題はないとは思う」
「はい」
「だが、愛しい君が戦闘に加わることで、俺は正常な判断を下せなくなるかもしれない」
レオン様が、少し恥ずかしそうなお顔をされています。そして、ぼそりと呟かれました。
「人をこんなにも愛したのは初めてなんだ。想像しただけで、こんなに不安になるとは思わなかった。……すまない」
「レオン様……っ、約束しますわ」
「ん。ありがとう」
レオン様のほっとしたような柔らかな微笑みを見て、絶対に裏切らないと心に誓いました。
あと、煩悩だらけで提案したことが、ちょっとだけ恥ずかしくなりました。





