40:シュラスコシュラスコ!
シュラスコ。
それは味付けは塩味のみというとてもシンプルな料理。
鉄串に肉塊を刺して、炭火で焼くだけ。
ですが、とてもとてもそれだけとは思えないほどに、お肉に旨味が凝縮している料理なのです。
「塩味と火加減で決まると言われている料理ですね」
「ああ。三国隣のブラディリアという国から伝わって来たものだ。良く知っていたな」
「狩りを嗜む者たちの中では有名ですので。どこの岩塩を使うかで、よく口論になっていますわ」
「ほお?」
レオン様は『ただの焼いた肉』という感覚らしいです。
もったいない。とても、もったいないです。
「料理長が中庭で焼いてくれているらしいから、移動しよう」
妙にいい匂いが漂っているなとは思っていたのですがまさかの、中庭でバーベキュー状態とは思ってもいませんでした。
レオン様がにやりと笑いながらショートコートを差し出してこられました。まるでいたずらが成功した子どものようなお顔です。
「うふふ。だから髪をちゃんと乾かせと?」
「あぁ、風邪をひくといけないからな」
「ありがとう存じます」
レオン様にコートを着せていただき、二人並んで中庭に向かいました。
中庭にあるガゼボで今日は夕食なのだそうです。
沢山のロウソクで明るくライトアップされています。ベンチには、ふかふかの白い毛皮が敷いてありました。
ホワイトグリフォンの毛皮なのだそう。
脳内にある程度インプットしていた魔獣辞典を捲りました。討伐難易度が軍隊レベルでギリギリだと書かれていたような記憶が……まさかね?
辺りに漂うシュラスコの匂いとふかふかの毛皮のせいで、どっちに注目したらいいのか迷子です。
「ん、いい匂いだな」
「っはい!」
注目すべきは、シュラスコですね!
大きなバーベキュー用のグリルで料理長が焼いているお肉をジッと見ます。
牛、豚、羊…………と? 見覚えのない白っぽいお肉もありますね。何でしょうか? 大きさ的には二十センチほどの厚さがありますが。
「左端のお肉は何でしょうか?」
「ん? サーペントか?」
「はい。少し余りがありましたので。奥様は苦手とかなさそうだなと確認していませんでしたが、大丈夫ですかね?」
――――サーペント。
ゴクリと喉が鳴ります。
食べたこと、ありませんでした。
脳内辞典によると、大きなものは胴体の長さが五メートルにもなるとか。
「一番に食べたいです!」
「平気そうだぞ」
「……ですね。承知しました」
料理長がサーペントのお肉を大きなナイフで薄く削ぎ落とし、レオン様と私のお皿に乗せました。
ステーキの時同様に、いろんなソースが用意されていました。シュラスコ専用のトマトと白ワインベースのソースもありました。
「どれにしましょうか……」
「鶏むね肉に近い気がするから、鶏に合うものがいいかとは思う」
「では、トマトガーリックソースにして――――んむ! 美味しいです!」
「…………フフッ。早いな」
レオン様が苦笑いしつつ、サーペントのお肉にレモンソースを付けてモリッと食べていました。どうやらレオン様はさっぱり系がお好きなようです。
「んっ! レモンソースもおいひいでふ!」
「はははっ。落ち着いて食べなさい。お肉は逃げないから」
「ふぁい!」
まだまだ一種類目。
次は牛にしましょうか? あ、豚もすごく美味しそうな色に焼色がついてますね…………とても、迷います!





