4:お肉まみれ!
屋敷に戻り、私のみ解散することになりました。
レオン様たちはこのあと狩った獲物を自分たちで捌く訓練なのだそうです。それにも意気揚々と参加しようとしたのですが、「流石に捌くのは淑女には無理です! 卒倒してしまいます!」と見習い騎士たちに説得されてしまいました。
既に自分で血抜きしたりしていますが、どうやらレオン様がしてくださったと勘違いされているようです。確かに、狩りにだけ参加し、その他は男性任せの方もいますからね。
それに、なんだか本気で止められているので、仕方なく納得した振りをしました。
騎士団の建物へ向かうレオン様たちを見送り、うさぎと鴨を肩にぶら下げて厨房に向かいました。
どう料理しようかとウキウキしていましたが、料理長と執事に全力で止められてしまいました。
ここは実家ではありませんし、仕方ないのでグッと我慢です。……今は。
「うさぎは、リエーブル・ア・ラ・ロワイヤルがいいけれど、時間がかかるから、カチャトーラでいいわ。鴨はモモ肉をコンフィにしたものがいいかしら?」
「え……肉料理を二つも、ですか?」
この会話、実家でもよくしていたわね。
必殺! 煌めくハニーブロンドヘアーと、抜ける青空のようなくりっとした瞳を潤ませる。そして、ぽってりとした桃色の唇を少し尖らせて小首を傾げる攻撃!
「だめ?」
「っ――――しょ、承知しました。直ぐにお作りします」
「まぁ! ありがとう!」
――――いよっし!
狩り用の服からデイドレスに着替えて部屋で一休みしていると、レオン様が訪室されました。晩餐の席が準備できたそうです。
エスコートしてもらい、食堂に向かうと、どこからともなく鴨肉とスパイスの匂いが漂って来ました。
「まぁ! とても良い匂いがしますね」
「ん。クラウディアがメニューを希望したそうだな」
「はい、鴨肉はコンフィが大好きなのです」
「あぁ、君が狩ったものを使うように言ったのか」
レオン様がクスリと柔らかく笑われました。
なぜそのように笑われたのか気になりましたが、まだまだ真に仲良くなれていませんので、ちょっと聞きづらいです。
晩餐は他愛もない話をはさみつつ順調に進み、メイン料理になりました。
「うさぎのカチャトーラです」
「ん? 鴨のコンフィではなかったのか?」
給仕が配膳し、侍女長が料理名を伝えると、レオン様が怪訝な顔をされました。
「コンフィはこのあとにお出しします」
「肉料理が……二品? ああ、そうか。いや、すまない。気にするな」
レオン様が何か考える仕草をしたあと、なぜか一人で納得され、食事を再開されました。
カチャトーラは、うさぎ肉とトマトやピーマンなどの野菜を、ハーブとワインで煮込んだもので、淡白なうさぎ肉はねっとりと柔らかくなるのが特徴です。そして、トマトソースととても合う。
「んんんっ! とても美味しいわ」
「料理長に伝えておきます」
そして、次に運ばれてきたのは、鴨のコンフィ。
低温の油で煮られた鴨肉は、旨味がギュッと凝縮されています。皮はパリパリ、肉はふわふわと柔らかく、口の中に幸せが広がりました。
「んんんーっ! おいひい! 今度コツを聞かなきゃ」
「ん? クラウディアは自分で料理をするのかい?」
「はい! 狩りも料理も趣味として嗜んでおりますの」
レオン様がキョトンとした顔になられたあと、クスクスと笑いだされました。
「君は、王都で見ていた貴族の娘たちとは全く違うな」
「あー、まー、はい」
そういえば、影で良く言われていましたね、『肉食令嬢』と。
「ははっ。狩猟民族と揶揄される辺境と、肉食令嬢か。面白いほどにぴったりな組み合わせだな」
王都で経験していたように、いつものごとく引かれるのかと思っていましたら、レオン様が笑顔のままでとても楽しそうにそう言われました。
「ですわよね! 私、これからがとても楽しみですの」
「ふっ、ははは。ん、私もだ」
狩猟民族に嫁入りと言われて小躍りしていたのに、正体は辺境伯爵だったもので、実はちょっとガッカリしていたのです。でもなんだか、希望通りの生活が送れそうな気がしてきました。
「特に、明日のご飯も、楽しみです!」
「ふふっ。ん、料理長に伝えさせよう」
「はいっ!」
明日は、何が食べられるのでしょうか……。
ゴロゴロミンチのハンバーグ?
鹿肉のポトフ?
ローストビーフ?
そう言えば、バジリスクなどは、毒をしっかりと処理すれば食べれると聞きましたね。
稀に飛来する竜などは、腰が抜けるほどに美味しいとか――――。
「こちら、竜などは飛来したり?」
「ん? 小型のものなら年に二度ほどあるかな」
――――いよっし!
お肉お肉お肉、お肉まみれです。
このヴァルネファー辺境伯、宝の山じゃないですか!
なんだかレオン様も好意的ですし、お肉のために結婚して本当に良かったです!