36:おやつもあるのです。
食事を終え、ささっと片付けて、炭は燃え切るまで熱源として利用することにしました。日差しは暖かいですし、風もないですが、やはりちょっと冷えますから。
肩に厚手のショールを掛けましたら、後ろからギュッと抱きしめられました。
「レオン様?」
「寒いなら俺が温める」
「ふふっ。ありがとうございます」
レオン様に後ろ抱きされ、膝の間に座りました。
背中に感じるレオン様の温もりは、とても心地よいです。
「殿下の話だったな――――」
レオン様は騎士見習いとしてほんの一時期だけ、王都にいらしていたそうです。王城の近衛騎士に混じり訓練や警護に参加しているときに、王女殿下の護衛を数日担当したのだとか。
当時のレオン様は十五歳、殿下は八歳…………あら?
「レオン様っておいくつですか?」
「……………………は? え? 知らなかったのか?」
「はい」
年上だろうなぁくらいしか思っていませんでした。
三十後半くらいでしょうか? 凄く落ち着いてありますし。
「二八だが…………そうかそうか……そうか、見えないのか」
あら? あららら?
なんだかレオン様がご機嫌斜めな声になってますね。
お腹の前に回されている腕に力が……。
左首筋にチクリとした小さな痛みが走りました。
「――――っ?」
左後ろ側からレオン様が鋭い瞳でこちらを覗き込まれています。目が合いましたがスッと逸らしてしまいました。
「あっ!」
二回目のチクリ。
首筋にキスマークをふたつもつけられてしまいました。
「まぁ、冗談はさておき、本題に戻るか」
結構に本気の目をしてありましたが、つっこんではいけないのでしょう。
王女殿下はその時以来、ずっとレオン様のことがお気に入りのようで、何度かあったお見合い話は王女殿下の圧力により立ち消えたとのことでした。
それ以降も、何度か女性と良い雰囲気にはなるものの、ふと気付いた時にはご令嬢たちはサササッと逃げていくようになったそう。
酷いなとは思うものの、その王女殿下が邪魔してくださったおかげで、私はレオン様と結婚できたのですから、ちょっとだけ感謝の念が生まれてしまいました。
「まぁ、たしかに。今となっては多少感謝しているよ」
「はい。私もです」
王城ではどんな噂が立っていたのかというと、やはり『狩猟民族』という蔑称が噂の主軸のようでした。
うむむむ、何ができることがあればいいのにぃと思いつつ、鞄からドライソーセージを取り出しパクリ。
小腹が減ると思考がちゃんと纏まらないので、おやつを持ってきておいて、良かったです。
「このタイミングでか…………」
「ふぁひ? あ、ドライソーセージです」
「……おん」
「もちろんドライフルーツもありますよ!」
「何がもちろんなのかわからんが、ドライフルーツか。もらおう」
なぜか不服そうなレオン様は、ドライアップルをカリカリと食べながら、うまいと一言漏らされました。





