32:愛している。
目が覚めると、外は薄暗く早朝のようでした。
レオン様はまだ眠られているようで、目蓋はしっかりと閉じられています。
『愛してる』
脳内に繰り返される昨晩の言葉。
心臓が締め付けられ、また涙が溢れそうになります。
「っ……ぅ? なんで?」
自分の情緒が理解できません。
起き上がってぐしぐしと手の甲で涙を拭っていましたら、いつの間にか悲しそうなお顔のレオン様にジッと見つめられていました。
「私は…………泣いている君に何をしていいのか、わからない。抱きしめたい。でも、そうしたら君はまた泣くだろう?」
昨晩、抱きしめられて一層酷く泣いてしまいました。レオン様はそれがレオン様のせいだと考えたと言われました。
違うんです。そう言いたいのに、言葉が出ません。
頭ではわかっているのに、口から出ていくのは子供じみた言葉ばかり。
「やだ…………うぅっ……」
「何が嫌なんだ?」
「……ぎゅってして」
「ん」
レオン様が起き上がり、柔らかく抱きしめてくださいました。レオン様の腕の中は温かくて落ち着きます。
もっと強く抱きしめて欲しいと言うと、その通りにしてくださいました。
今までというか、子供の頃さえも、こんなに泣いたことは一度もなく、涙の止め方がよく分かりません。
ぐるぐると考えれば考えるほど、また涙が溢れて来るのです。
「…………レオンさま」
「んー?」
「レオンさま」
「なんだい?」
背中をゆっくりと撫でられ、少し落ち着いてきました。
レオン様のお名前を呼ぶと柔らかく返事をしてくださいます。
――――また、聞きたい。
「……きのうの」
「昨日?」
「ききたいです」
「聞く? 何をだ?」
「………………やっぱり、いいです」
私は馬鹿です。
強要して、言わせてどうするのでしょうか? 何になるのでしょうか?
「まてまて、一人で完結させるな!」
「っ……」
「ちゃんと言葉にしなさい。君と私は他人なんだ、伝わるわけないだろう?」
「っ!? 他人じゃないですっ! 夫婦です!」
契約結婚だけど、夫婦になったのに。他人なんて言われて、悲しくて大きな声を出してしまいました。
「っ………………クソ」
レオン様の言葉に身体がビクリと震えました。
「あ、すまん。今のは俺、っと…………私、自身にだ」
「…………レオン様は普段は『俺』と言われるのですか?」
「ん? あー、まぁ、騎士団の中でだけ、かな」
騎士団の中だけは、気が抜けるのですね。
「私の前では、そんな風に素のレオン様を見せては下さらないのですね」
思っていたことが、より棘が強くなった形で口から出てしまっていました。
レオン様の胸をグイッと押し退けながら、さらにひどい言葉を吐き続けてしまいました。口から溢れた言葉は元には戻せないと分かっているのに。
「契約結婚だからですか?」
「クラウディア?」
「夫婦だと思っていたのは私だけなんですね。レオン様にとって私は押し付けられた迷惑な女で、他人――――」
「クラウディア!」
「っ!」
レオン様の声に怒りが混じっています。
男の人の大きな声は、怖い。自分だって怒鳴ったくせに、何を考えているんだろうと、自己嫌悪になります。
「クラウディア、愛していると言っただろう? 俺は、君を愛している! なのに、何故そんなことを言うんだ!?」
「っ………………ほんと?」
「だっ……あぁっ、泣くな…………怒鳴ってすまなかった。本当だ、愛している。君に伝えていないような気がしていたが……やっぱり伝えていなかったな。本当にすまなかった」
このあと、泣き続ける私にレオン様はずっと『愛している』と言い続けて下さいました。
このときの私は、気付いていませんでした。
私自身は、レオン様に『愛しています』と言ったことがなかった、ということに。
あ、諸事情で(なんのだよ)新作の短編出しましたー。
ちょっとダーク……かな?
気になられた方はどんぞーヽ(=´▽`=)ノ





