3:ノルマを達成する。
低木の側に屈み、弓を構えたままジッと地面にある巣穴を見つめます。
――――出て来た! もう少し、もう少し待って。
茶色く丸々と肥ったウサギが、巣穴から外に出てきて後ろ脚で立ち上がりました。
キョロキョロと辺りを見回し終え、毛づくろいを始めた瞬間に、右手の力を抜き、矢を放ちました。
――――よし!
先ずは一頭。
巣穴から離れた場所で血抜きを行います。可哀想だと思う方もいらっしゃるでしょうが、これは人が生きる上で必要なこと。命に感謝し、しっかりと食べることと決めています。
狩り場をゆったりと歩いていると、小さな池を見つけました。
――――鴨。
足音を消してそっと木陰に入ります。弓をしっかりと、でも静かに引き、矢を放つ。直ぐに次矢を番え、放つ。
「よし」
バサバサと飛び立つ鴨たちを見送り、周囲に獰猛な獣が潜んでいないかを確認して、射止めた二羽の鴨を回収しました。
先程うさぎの血抜きをしたところで、鴨も血抜きをします。
外傷がなければ、一度冷やしてから熟成させるという手もあるのですが、今回は矢で射ましたので、血抜きは必須です。
それぞれの脚にロープを括り、肩から下げて集合場所に戻っていると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえました。
振り向くとそこには、ダークアッシュな髪の毛をサラリと靡かせながら、レオン様が物凄い形相で走ってきていました。
――――え、怖っ。
「クラウディア! 探した――――は? 何だそれは」
「はい?」
レオン様が伝説の魔獣でも見たかのような表情で、私の方を指差します。指の先は、肩? あ、獲物かしら?
「うさぎと鴨ですわ。ノルマの三頭です」
「…………………………は?」
たっぷりと時間を置いて、言われたのはその一言のみ。
とりあえず、集合場所に戻るぞと言われたのでレオン様の後をついて行きました。
「……レオン団長が仕留めたんですよね? そうだと言ってください。いやほんと、お願いします」
「俺はクラウディアを探していただけだ……」
「「……」」
レオン様、みんなの前では『俺』と言われるのですね。なんだか、野性的です。
集合場所に戻ると、どうやら私は一番乗りだったようです。
報酬は何でしょうか? 金銭よりお肉が良いのですが。あ、でも良く考えれば、辺境伯夫人なので、ノーカンですかね? それだと残念ですが、まぁ、今回仕留めたものでなにか作ればいいだけですし、仕留めたものが報酬でいいですね。
私が戻って、三時間ほど経った頃、やっと最後の一人が戻ってきました。
「…………今回の報酬は、なしだ」
「「えー!?」」
「……なぜ、クラウディアまで『えー』なんだ」
――――はっ!
見習い騎士たちのブーイングに釣られて、つい口から漏れ出てしまっていました。美味しいお肉の可能性が捨てきれず、煩悩がダダ漏れでしたね。
申し訳ございませんと謝ると、金色の瞳を丸くして、キョトンとされてしまいました。
「報酬は、肉でいいのか?」
「はい! え? くださるんですか!?」
「「……」」
なぜか、その場にいた全員が困惑の表情をしていました。
お肉、嬉しくないですか?
美味しいですし。