29:実食!
料理長とあれやこやとお肉談義していましたら、あと三十分ほどでレオン様が戻られるだろう時間になりました。
寝かせていたお肉にコーンスターチをまぶします。
「では、揚げていきましょうか」
「やっとね!」
温めた油の海に、ひとつずつお肉を優しく沈めます。
ジュワワワワワと油がお肉を包み込んでいく様子は………………涎が垂れそうで、淑女としてとても危うかったです。
十秒、二十秒と時間が経つにつれ、どんどんとお肉の匂いが強くなってきます。
「もう美味しそうな匂いがするのだけど!?」
「まだです」
「もう食べて良くないかしら?」
「まだです! 我慢です!」
料理長に普通に怒られてしまいました。
油の温度はあまり上げすぎないようにするのがコツなのだそうです。ただ表面が焦げて、中は生では食べられませんからね。温度管理、とても大切ですね!
お肉のためにも!
「そこは、旦那様の為にで……」
「………………そうね!」
――――ゲフンゲフン。
表面がきつね色になり、こんがりしてきたら、油の海からあげていいそう。
ここまでに投入から要した時間、まさかの七分!
初期の油の温度や揚げ方によってはまだ時間がかかるのだとか。
フリッターとはまた違う感覚なのね。
「それにしても、おいしそうな見た目ね……………………ひとつくらい……?」
「駄目です」
「もう。ケチね」
レオン様が戻られたと報告をもらい玄関に急ぎました。
「ん? クラウディアからいい匂いがする」
「はい! 今日はコカトリスのカラアゲにしました! 早く行きましょう。冷めてしまいますわ」
カラアゲの匂いの香水……いえ、駄目ですね。だってずっとお腹を鳴らすことになりそう。なんて事を考えつつ、レオン様の腕をグイグイと引っ張りながら食堂に向かいました。
レオン様は私の斜め後ろを歩きながら、クスクスと笑われています。レオン様もカラアゲが楽しみなのですね!
「ブフッ!」
レオン様が盛大に吹き出されました。どうしたのかとお伺いすると、カラアゲが二山あることが面白かったのだとか。
ノーマルカラアゲと、料理長カラアゲだと説明するとクラウディアカラアゲはないのかと聞かれました。
クラウディアカラアゲを作成するにはまだ経験値が足らず、未熟なままで中途半端に作ってしまえば、コカトリスを冒涜しかねません。まだ、その時ではないのです。
「っ、ん、ふははっ。ん、そうだな。その時を待つことにしよう。楽しみにしているよ」
「はい! では、食べましょう!」
「っふっ、んははははは! ああ、食べようか」
先ずはノーマルカラアゲから。
齧り付くのが正式な食べ方らしいので、フォークで突き刺して口元に持っていくのだそう。
ブツッ、ザクリ。
フォークを刺した瞬間から、カラアゲの弾力を全身に感じました。
恐る恐る口を開き、歯を立てます。
ザクッ、ジュワッ。
――――っ!?
先ず感じたのは、ニンニクの香り。その次に塩とはまた違うコクのある塩のような味。口の中に広がる肉汁は、荒々しさの中に優しさも居合わせているような芳醇さを、鼻の奥から脳の芯まで届けてくれました。
「っ……………………あれ?」
気付いたらお皿のカラアゲが半分になっていました。
「ふむ。コカトリスのカラアゲはやはり美味いな」
「……レオン様、食べたことがあるのですか?」
「ん? 時々な…………え、いや、なぜそんなに憎い者を見るような目で…………」
「ズルいです。こんなに美味しいものを……むぐぐ。んっ、美味しい。ズルいです!」
「喉に詰まらせるから、食べ終えてから話しなさい」
「っ……ズルい。…………美味しい」
なんだか気が収まらなかったので、レオン様のお皿のカラアゲを横取りしましたら、笑顔で追加を差し出してくださいました。
レオン様、優しいです。好きです。
「ありがとうございます!」
「ふはははっ。ん、機嫌が直って良かった」
レオン様はこの日、ずっとニコニコ笑顔で、時々急に吹き出しつつ過ごされていました。
どうしても、ここで投稿したかった…………
お昼に、肉。
29:実食!
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