21:ステーキソースたち。
レオン様に狩りに誘っていただき、ルンルンとなりながら食堂へと向かいました。
既に牛肉のいい匂いが漂って来ています。メイン料理が待ち遠しいです。
レオン様と明日の計画を話しながら食事を進めて行きました。
先日の狩り場より少し奥へ行くと、生息するものがガラリと変わるのは調査済みです。レオン様から借りた本や報告書から漂う雰囲気的にはなんだかイケそうな気がしています。
あとはレオン様が『そこでいい』と言ってくだされば…………。期待を込めた視線を送っていましたら、苦笑いされてしまいました。
「クラウディア、普通の野生動物と魔獣は少し違うから、緊急時は私の後方に下がってくれれば大丈夫だから」
「はい! 命に替えても、その命令に従いますわ!」
「いや、まあ、そうなんだが……物凄く全力感が凄いな」
レオン様が困ったようにクスクスと笑われていたのですが、何が可笑しかったのでしょうか?
「お待たせいたしました」
あ、お肉が届きました。
この話は一旦止めて、お肉に集中しましょう!
「ん? ステーキか……何も掛かってないが?」
「はい、下味のみ付けていただいております」
焼く直前に塩胡椒のみですが。
焼き加減はミディアムに指定させていただきました。ちなみにレオン様の好みは、わからないそうです。なので、私好みに染めようと思います。
そもそも、今回はソースの好みの幅を増やし、食事を楽しむがコンセプトですからね。
給仕が細長い銀のお盆に、小さなココット皿を乗せて私たちの前にそれぞれ置きました。
「これは?」
「ステーキソースですわ」
レオン様がキョトーンとしていますね。
説明をしっかりとお伝えすると、ワクワクとしたお顔に変化していかれました。これは、食べる前からいい反応ですね。
「ステーキを一口大に切りましたら、ココット皿のソースに浸けて食べると、様々な味を楽しめます」
「なるほど! 面白そうだ」
レオン様がステーキを切り、まずは左端のソースに浸けました。
左端は、トマトガーリックソースです。
「んむ……うん。美味いが、肉の旨味がガーリックで少し遠のくのだな」
「そうですねぇ。匂いが強めのお肉とかであれば、丁度いいのかもしれませんね」
その隣は、いつものイチジクソース。
うさぎ肉に掛けるのは好きだったようですが、牛肉にはいまいちだったようです。
その次は、オレンジソース。
思っていたよりも美味しいとのことでした。
その次は、チョコレートソース。
名前を聞くと甘いのかと思いがちですが、バルサミコ酢や赤ワインと混ぜることによりマリアージュが起こり、なんとも言えない深みのあるソースになります。
「んっ!? 美味い! 鼻から抜けるカカオの匂いはチョコレートと言われればそうなんだが、ちゃんと肉に合うソースになっているし、肉の旨味を損なわさずに良く絡む…………これは、美味い」
急に饒舌になられ、もう一度チョコレートソースに浸けて味わっていらっしゃいました。
次は、フルーツソースです。
りんごやオレンジと玉ねぎを使い、モルトビネガーでしっかりと味付けをされています。
「ん? ほぉ。普通に美味いな。なんというか、普通だ」
そして最後は赤ワインソースです。
肉を焼いたあとの肉汁たっぷりのフライパンに赤ワインとトマトピューレやビネガーをいれ、黒胡椒でピリッと締めています。
「ふむ……これも普通だな。ただ、さっきのものよりはこちらの方が好きだな」
「うふふ。楽しんでいただけました? 念のためおかわり用のお肉も頼んでいましたが、持ってこさせます?」
「ん! 食べる!」
レオン様がキラキラとした笑顔で頷かれました。今回一番気に入ったのはチョコレートソースだったそうです。牛肉との相性はとてつもなく良いですからね。納得です。
どうやら今回の目的は達成できたようで、私も自然と笑顔になりました。





