19:何故か、お昼を過ぎていた。
起きたらお昼過ぎです。
何故か! お昼を過ぎているのです。
「レオン様は?」
「騎士団に戻られました。夜はともに食べよう、とのことでした」
「わかったわ」
食堂で遅めのお昼ごはんをいただき、厨房へと向かいました。
「料理長、ちょっと相談があるのだけれど、お時間いただけるかしら?」
いつもの食事をありがとうと伝えつつ、先日気付いた『ソース問題』を料理長に話しました。
食に興味の薄かったレオン様が、最近は楽しまれていることに、料理長も気付いていたようです。
「今日は、ソースを食べるための食事にしてみない?」
「ソースを食べるための、ですか?」
料理長が興味を示してくれたので、説明を続けます。
ステーキなどは提供されるとき、既にソースが掛けられているのが基本です。今回はそこを変えてみようと思っているのです。
何も掛けられていないステーキ肉をお皿に盛り、ディップ用の小さなココットに様々なソースを入れて出す。
ココット入りソースは自分だけのもので、ステーキを切り、ソースに漬けて、食べる。
これだと、色んな味を試せるし、気に入れば何度でも食べられる。しかも、間に違う味を挟んでみる、など自由度の高い食事になると思うのです。
「なるほど……ココット皿にですな」
「ええ。色んな味を試して、レオン様にもっと食事を楽しんで欲しいのです」
食事は生きるために必要で、栄養さえ取っていれば大丈夫なのでしょうが、『美味しい』や『楽しい』も大切なのです。食事は身体も心も健やかに出来るのですから。
「おかえりなさいませ」
「ん、ただいま」
玄関でレオン様をお迎えすると、少しだけ申し訳無さそうな顔をされました。どうされたのでしょうか?
帰られるとお着替えに向かわれるので、ついて歩きながらお伺いしてみると、予想外なことで気に病まれていました。
「昨晩はすまなかったな」
「へ? 何がでしょうか?」
「抱き潰してしまったことだ」
「ほわっ……ちょっ………………じっ、侍女に聞こえますっ!」
私たちの後ろには侍女が歩いていますし、なんなら執事も歩いていますけども!
普通に人に聞こえる声で言われると流石に恥ずかしいのですが!?
「ん? 今更じゃないか? 片付けやベッドメイクなど使用人たちがするだろう」
「そっ、それはそうなのですが……」
「それから、朝の狩りに行かせてやれなかった。本当にすまない」
何やら深刻な声で謝られてしまいました。
それは、行けるなら行きたかったですけど。日課と言えど、毎日行くという訳ではないのですよね。それに、そろそろ狩り場を変えたかったので、レオン様にご相談もしたかったですし。
「朝方、ずっとうなされていてな」
「へ?」
「クラウディア」
「はい?」
レオン様がピタリと足を止めたので、慌てて止まり向かい合いました。
「明日はともに狩りに行かないか?」
「っ! はい! ぜひっ!」
あまりにも嬉しいお誘いに、前のめりになって返事をしてしまいました。