17:レオン様のお仕事と、お父様の日常。
「……レオン様、とても……とてもとてもとても美味しいですわね」
「あぁ。複雑かつ力強い味……これは…………ハマるな」
「えぇ。もう少しだけ食べて、この複雑さを紐解きたいような?」
「っ! 奇遇だな。私もそう思っていた」
「「…………」」
ちらりと絡み合う視線。
それは、腹の奥底から湧き出る欲望――――。
「「おかわりを!」」
リエーブル・ア・ラ・ロワイヤルを…………おかわりしました。二人とも。つい。
味を紐解くとかいう『言い訳』そっちのけで、二皿目もぺろりと食べてしまいました。
自分で作ったものや、以前レストランで食べたものよりも、格段に美味しいんです。料理長の腕はもちろんなのですが、ホーンラビットのお肉というのも、理由なのかもしれませんね。
「ふぅ。久しぶりに満腹になるほど食べた」
「あら? いつも満腹になってなかったのですか?」
「ん。いつなんどき大型魔獣の出現があっても動けるようにな。満腹だと、身体の動きが鈍くなるからな」
レオン様は、どこまでも民を守る騎士なのですね。
そういえば少し気になっていた事を聞いてみましょう。
そもそもレオン様って、辺境伯なのですよね。辺境伯とは、伯爵よりも地位が高く、国王陛下から様々な裁量の権限を与えられている存在です。
小国の王と言っても過言ではないほどなのです。
「――――なのに、なぜ騎士を続けられているのですか?」
騎士団長も務められ、討伐にも出て、新人の教育にまでもついていき……どれだけ仕事を掛け持ちされているのでしょうか?
「……………………仕事を制限し、共に過ごす時間を増やしたいという話か?」
レオン様の目付きが鋭くなり、辺りが寒くなったような気さえするほどに凍て付いた声を出されました。なぜ、怒りのような、落胆のような感情を露わにされたのでしょうか?
「いえ、全く。一ミリも」
そうお答えすると、レオン様の鋭かった瞳が困惑している仔犬のような瞳に変わりました。
お父様は常に家にいて、何か仕事をしていた形跡がなかったのです。狩りから戻ると玄関に駆け付け、厨房でなにかしていると摘まみ食いに現れ、執務室に籠もって珍しく書類仕事かと思いきや手には落書きを持っていたり。
ほんっっっっっとうに、何もしていないんです。
「なるほど……理解した。確かに伯爵は……まぁ、その……うん…………君の母上は幼い頃に亡くなられただろう?」
「はい。そうですが?」
それとこれと何か関係があるのでしょうか?
「幼い君を使用人に任せきりにするのは嫌だったから、君と共にいるための方法を…………色々と模索した結果なんだ。…………そっとしておきなさい」
――――ん?
要約すると、お父様のことは気にしてはいけない。ということですかね?
「ん。そっとしておきなさい」
二度も言われました!
そんなにも『そっとしておいた方がいい案件』なのですか!?
ちょっと、余計に気になってしまうのですが!?
「ん。そっとしておきなさい」
――――三回目ぇ!?