16:頬が落ちる。
レオン様と激しめにイチャコラしてしまった三日後、料理長からリエーブル・ア・ラ・ロワイヤルが出来上がったと報告がありました。
ずっと煮込んでくださっていたのですよね。本当に有り難いです。
夕食に出してくださるそうなので、お昼を食べたばかりなのにワクワクドキドキ、グルグルペコペコ。
気もそぞろになってしまい、弓やナイフの手入れに集中できません。
「っ……ふぅ。一旦ここで止めるわ」
侍女に部屋に戻ることを伝えました。
こういうときは本を読むに限ります。魔獣図鑑とは別にレオン様にお借りした分布報告を読むことにしましょう。
辺境伯領の国境付近では、比較的弱いホーンラビットから始まり、希少な竜などと幅広い種類がいるそうです。
分布図を開き見ていると、先日の麓の森には『ホーンラビット』や『ファイヤーラット』などの小型魔獣ばかりがいるようです。
そこから更に上のほうに行くと、普通の牛よりも大きな角を持った魔牛や、コカトリスという毒を持ったものも出だすのだとか。
「コカトリスって、おいしそうよね? 分類的には蛇なのかしら? 鶏なのかしら? そもそも食べられるのかしら?」
「……美味しそうには見えないのですが」
お茶を差し出してきた侍女に話しかけると、苦虫を噛み潰したような顔をされてしまいました。
夕食の席で、レオン様にも聞いてみましょう。
「――――ということがありましたの」
「コカトリスか」
レオン様いわく、蛇の部分と鳥の部分は別の脳を持っており、身体の主導権は鶏側なのだそう。蛇の部分は毒線があるから素早く斬り落とし、蛇頭を刺すのが戦うときのコツ。
鶏部分のみになると、野生の鶏とはそこまで大差がないそう。
魔牛においては、ただ大きい角があるだけの気性の荒い牛なのだと説明されました。
なんだかイケそうな気がしますね。
次はもう少し上の方に狩りに行ってみましょう。
「メインのリエーブル・ア・ラ・ロワイヤルでございます」
色々な計画を脳内で立てていましたら、待ちに待ったメインが到着しました。
見た目は真っ黒なソースの海に浮かぶ、真っ黒なお肉と、肌色に近いペースト状のフォアグラなどを使った詰め物と丸々とした黒トリュフの断面。
とにかく、黒い。
ただ、赤ワインとブランデーをたっぷりと使い、お肉を煮詰めているだけあって、とてつもなく香り高いのです。
ゴキュリ。
私とレオン様の喉が同時に鳴りました。
「見た目に反して、いい匂いだな」
「っ、もう食べていいですか?」
「ふっ……ん、頂こうか」
「はい!」
美味しいものを食べると、人は『頬が落ちる』と言いますが、本当に落ちるというよりは、何故か頬を押さえて咀嚼してしまうので、きっと『頬が落ちそうになっているように見える』のだろうなと思いました。
まさに今、私がそうしているんですけどね。
ちなみに、レオン様は、ずっと目を瞑ったまま咀嚼されていました。
本気で味わっていらっしゃいますね。ちょっと可愛いらしいです。