14:レオン様の匂い。
ホーンラビットの調理は、料理長に任せることにします。
リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル煮込み時間に数日要するので、今日は食べられないのが悲しいところ。
お昼はうさぎ肉から出る屑肉をミンチにしてボロネーゼを作ってもらうことにしました。
私はというと、魔獣図鑑をお借りするためにレオン様の執務室に向かっています。レオン様に確認し、ちゃんと入室許可をいただきました。
侍女に案内され中に入ると、ふわりと香るシトラスとシダーウッド。レオン様の匂いです。何故か胸の奥とお腹がキュッとなりました。
――――お腹が減ったのかしら?
とにかく、今は魔獣図鑑が優先!
執務室の左側の本棚にあるとお伺いしていましたので、ふんふんと鼻歌を歌いつつ見ていたのですが、魔獣図鑑とは別に魔獣の捌き方などの本もありました。
「普通、魔獣図鑑に捌き方も載せない?」
「の…………せないかと……」
侍女が言葉を濁しかけて、結局『載せない』と断言しました。
あら? もしや普通じゃないの? ちょっとあとでレオン様にお伺いしてみましょう。
部屋に戻り、ソファに座って魔獣関係の本を読んでいたのですが、非常に面白いのです。ついつい読みふけってしまい、レオン様が屋敷に戻られたことに気付きませんでした。
レオン様が私のお部屋に来られ、隣に座られてからやっと気が付きました。
「そんなに面白いのか?」
「ふあぁ? レオン様!? あっ! 申し訳ございません」
「ん、気にするな。それにしても凄く楽しそうだったが、何かいい情報でも得たのか?」
レオン様がくすりと笑いつつ、体をピタリとくっつけて膝のうえに置いていた本を覗き込んで来られました。
――――近い、近い近い近い!
ふわりと鼻孔をくすぐるシトラスとシダーウッド。
執務室の残り香よりも濃くはあるものの嫌な匂いではなく、どちらかというととても良い匂いだと感じます。あと、また心臓とお腹がギュッとなりました。
そっとお尻半分程度レオン様から離れましたら、ムッとした声で何故離れるのかと聞かれてしまいました。
これ、言っていいんですかね? でも、色々とお互いのことを知りたいと今朝話したばかりですし、失礼なことだったとしても、伝えたほうが良いのかも?
「その…………」
「ん?」
レオン様が柔らかく微笑まれたので、覚悟して伝えてみることにしました。
「その……レオン様の香水でしょうか? シトラスとシダーウッド」
「ん? ああ」
「凄くいい匂いだとは思うのですが……」
「うん?」
レオン様がキョトンとされています。
あれ? これ、本当に伝えて大丈夫なのでしょうか? 凄く傷付けたりしませんかね?
「その、嗅ぐと……胸の奥とお腹が何故かギュッと締め付けられるので…………その、ちょっと離れたいなと。お腹が鳴ってしまいましたら恥ずかしいですし」
「………………………………天然か!」
レオン様が両手で顔を覆い、天を仰ぎ、叫びました。
「ひょわ!? ごめんなさいぃぃ、臭いとかではないのです! どちらかといえば好きな匂いです!」
「煽った責任は取れよ?」
目を据わらせたレオン様が、騎士服の襟元を緩めながら何故かソファに押し倒して来られました。
覆い被され、頭の上で両手首を一纏めで拘束されました。
ぺろりと唇を舐めるレオン様から、妙な色気を感じます。
――――これ、どういう状況ですかね?