10:馬に乗れるのか。
先日と同じ道順で歩いていましたら、後ろから馬の嘶きが聞こえました。
逆光に照らされてよくは見えませんが、フォルムがなんとなく馬に乗ったレオン様のような気がします。まだまだ距離がありますし、とりあえず先に進みましょう。
「っ、ハァ……クラウディア…………先に行くな」
「申し訳ございません、時間が惜しかったもので?」
真後ろに来られたようなので、そちらに視線を向けましたら、芦毛の馬に乗ったレオン様と、別にもう一頭の誰も乗っていない白馬。
何故に空の馬を? と思いましたら、乗るように言われました。
「え?」
「あっ、乗れないのか」
「いえ。乗れますが」
「…………乗れるのか。まぁそんな気はしたから連れてきたんだが」
狩り場には馬で向かっても良かったのですね。先日は皆様と歩きましたから、徒歩でしか行ってはいけない狩り場なのかと思っていました。
「いや、あれは訓練目的だからだ」
レオン様が馬から降りて、白馬の手綱をわたして来られましたので、あらどうもと受け取って、白馬に挨拶しつつ左側に立ちました。
左手でたてがみと手綱をしっかりと握り、右手は鞍の後ろを掴みます。左足を鐙に掛け、勢いよく跨がる。
「………………ん、乗れるよな……」
右足を鐙に掛けていると、レオン様が妙にしょんぼりとした声を出されました。そして、とても美しい所作で芦毛の馬に跨がると、馬の腹を踵でクッと押しました。出発の合図ですね。
あまり早く走らせない常歩で並進するようです。
「馬上では話せるか」
「はい、大丈夫ですよ」
「ん。クラウディア、私は君が何ができて何ができないか、全く知らない。私たちはまだ知り合ったばかりだ」
確かに。まだ知り合って六日目ですね。私もレオン様の事はほとんど知りません。
「予期せぬ形ではあったが、君と結婚した。契約結婚という形ではあるが、君を大切にしたいと思っている」
「まぁ! ありがとう存じます!」
「……うん。なるほど」
何故か苦笑いをされてしまいました。お礼を言っただけですのに。
「クラウディア、歩様はどこまでできる?」
「この子との相性もあるかとは思いますが、駆足までは大丈夫だと思います。襲歩は少し慣らさないと厳しいかと」
「………………ん、わかってた。うん。では駆足で向かおう」
「ハイッ」
白馬の腹を蹴り走るよう指示しましたら、後ろから「ぐっ、また先に行かれた」と聞こえたような気がしました。
そういえば、『旦那様を立てて少し後ろを歩くようにするんだぞ』とかなんとかお父様が言っていたような気もしますが……まぁ、とりあえず狩り場に急ぎましょう。
レオン様には、怒られたら怒られたときですわ。
早くしないとお肉が巣穴に逃げてしまいます。