【2-4】
「どうぞ」佐須刑事はさらっと促す。
「遺体発見現場は相撲原市の戸建て住宅で、家主がインフェルノミサワ氏──あえてアカウント名で呼びます。彼はイベントの主催者でもあった。参加者は彼のツイスター仲間である5名。いかリング氏、スーパーえびフライ氏、タコシマ氏、ビーフ氏……までが男性で、最後のミオタソが女性。さらにミオタソが所属する事務所のスタッフ2名が隠れていたそうですね。横浜アキコ氏と植木ヨウスケ氏──彼らは本名で呼びます、だってアカウントがないから」
「それで間違いない」
「ありがとうございます」目黒はにかっと笑った。
「ひとつ目の質問です。玄関先はどの時点までキレイだったのでしょうか。少なくとも、ミサワ氏が家を出るときまで段ボール箱──死体入りのそれは置かれていなかったはずですが」
「13時半ごろだ。まず横浜・植木のスタッフ2名が13時にミサワ宅に入っている。で、ミサワは14時の待ち合わせに向けて13時半ごろ家を出ているんだが、その後ろすがたをスタッフたちが玄関で見送っている」
「なるほど」と目黒。「じゃあ段ボール箱が置かれたのはそのあと。てことは、ミサワ氏以外の待ち合わせ組──いかリング氏、スーパーえびフライ氏、タコシマ氏、ビーフ氏、ミオタソ──に死体を運ぶのはムリですね。だってその時間、彼らは電車のなかにいたはずですから」
「まあ、そうだな」刑事が苦笑する。
「唯一ミサワ氏にはそれが可能です。待ち合わせに出かけたと見せかけて家に取って返し、物置小屋に隠していた死体を玄関先まで運ぶことが」
「彼は余裕をもって家を出ているから、それをやってからでも待ち合わせには十分間に合う」
「そうです、でも」と目黒は首を振る。「……この行動に意味が見出せません。自分で引っ張り出した箱を自分で見つけて、自分で開封する意味が」
「するとミサワの犯行でもない、と」
目黒はイエスともノーとも言わず、
「ふたつ目の質問です」とつづける。「イベントの内容は何だったんですか」
「降霊会だそうだ」
「……降霊会って、あの黒魔術的な? 誰の霊を呼ぶつもりだったんですか」
「粥田有美子とかいう……」
「ゆっこ!」目黒は食い気味に、いやほとんど刑事の言葉を遮った。「それはまた豪気な」
「ちゃんと聞きなさいよ」刑事はプンプンしながら、「降霊会はただのネタ振りで、その実、野上美緒によるスペシャルライブが眼目だったらしい。それで彼女のスタッフまでが駆り出されたってわけ」
「ミオタソ……懐かしいですなあ」
しみじみ言ったかと思いきや、目黒はいきなりアタシに話を振ってきた。
「おぼえていませんか剛流氏、ほら『快速男』! ワタクシたちが大学生のころに流行ったドラマですよー」
「ごめん、全然おぼえてない。……そのドラマがどうしたの?」
「ミオタソが出演していたんです。脇役ではありましたけど、ちゃんとレギュラーだったし」
それは初耳だった。まあ事務所に所属しているくらいだから、過去にそれくらいの実績があってもおかしくはない。
ふと気になってアタシは目黒にたずねた。
「そう言えば殺されたTAC七郎って人も著名人だったんでしょ?」
「もちろん。しかもTAC氏は『快速男』でミオタソと共演しておりますからな」
「何だって!」これに食いついたのは佐須刑事だった。「そりゃ本当なのか」
「……ええ。まあ、言ってもTAC氏は一度きりの特別出演でしたけど。ミオタソの役柄と絡みがあったかどうか、おぼえてないですなあ」
「いや、これは大収穫だ」刑事は鼻息が荒い。「降霊会参加者の誰も被害者との接点が見つからなかったんだが、これでひとつできた。──野上美緒のやつ、あえて黙っていたのか、それとも忘れていたのか……」
「TAC氏とミオタソのあいだに、過去に特別な関係があったかもしれないし、なかったかもしれない。いずれにしても犯人はミオタソに死体を見せたかった可能性があります。これは死体遺棄の動機①として、考えておくべきでしょう」
「ほかにも動機があるのか」
「ええ、ほかに考えられるのは、あの場所が降霊会の会場だったということです」
「何ぃ?」
「お分かりになりませんか」目黒はニヤリとしながら、「生贄的なことですよ。あるいは死者の霊を呼ばうための空っぽの器──すなわち死体が必要だったのかもしれません」