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シン・ヲタク爆誕!  作者: 大原英一
剛流恵子の苦悩
8/19

【2-4】

「どうぞ」佐須刑事はさらっと促す。

「遺体発見現場は相撲原市の戸建て住宅で、家主がインフェルノミサワ氏──あえてアカウント名で呼びます。彼はイベントの主催者でもあった。参加者は彼のツイスター仲間である5名。いかリング氏、スーパーえびフライ氏、タコシマ氏、ビーフ氏……までが男性で、最後のミオタソが女性。さらにミオタソが所属する事務所のスタッフ2名が隠れていたそうですね。横浜アキコ氏と植木ヨウスケ氏──彼らは本名で呼びます、だってアカウントがないから」

「それで間違いない」

「ありがとうございます」目黒はにかっと笑った。


「ひとつ目の質問です。玄関先はどの時点までキレイだったのでしょうか。少なくとも、ミサワ氏が家を出るときまで段ボール箱──死体入りのそれは置かれていなかったはずですが」

「13時半ごろだ。まず横浜・植木のスタッフ2名が13時にミサワ宅に入っている。で、ミサワは14時の待ち合わせに向けて13時半ごろ家を出ているんだが、その後ろすがたをスタッフたちが玄関で見送っている」

「なるほど」と目黒。「じゃあ段ボール箱が置かれたのはそのあと。てことは、ミサワ氏以外の待ち合わせ組──いかリング氏、スーパーえびフライ氏、タコシマ氏、ビーフ氏、ミオタソ──に死体を運ぶのはムリですね。だってその時間、彼らは電車のなかにいたはずですから」


「まあ、そうだな」刑事が苦笑する。

「唯一ミサワ氏にはそれが可能です。待ち合わせに出かけたと見せかけて家に取って返し、物置小屋に隠していた死体を玄関先まで運ぶことが」

「彼は余裕をもって家を出ているから、それをやってからでも待ち合わせには十分(じゅうぶん)間に合う」

「そうです、でも」と目黒は首を振る。「……この行動に意味が見出せません。自分で引っ張り出した箱を自分で見つけて、自分で開封する意味が」

「するとミサワの犯行でもない、と」


 目黒はイエスともノーとも言わず、

「ふたつ目の質問です」とつづける。「イベントの内容は何だったんですか」

「降霊会だそうだ」

「……降霊会って、あの黒魔術(ブラックマジック)的な? 誰の霊を呼ぶつもりだったんですか」

「粥田有美子とかいう……」

「ゆっこ!」目黒は食い気味に、いやほとんど刑事の言葉を遮った。「それはまた豪気な」


「ちゃんと聞きなさいよ」刑事はプンプンしながら、「降霊会はただのネタ振りで、その(じつ)、野上美緒によるスペシャルライブが眼目だったらしい。それで彼女のスタッフまでが駆り出されたってわけ」

「ミオタソ……懐かしいですなあ」

 しみじみ言ったかと思いきや、目黒はいきなりアタシに話を振ってきた。

「おぼえていませんか剛流氏、ほら『快速男』! ワタクシたちが大学生のころに流行ったドラマですよー」

「ごめん、全然おぼえてない。……そのドラマがどうしたの?」

「ミオタソが出演していたんです。脇役ではありましたけど、ちゃんとレギュラーだったし」


 それは初耳だった。まあ事務所に所属しているくらいだから、過去にそれくらいの実績があってもおかしくはない。

 ふと気になってアタシは目黒にたずねた。

「そう言えば殺されたTAC七郎って人も著名人だったんでしょ?」

「もちろん。しかもTAC氏は『快速男』でミオタソと共演しておりますからな」

「何だって!」これに食いついたのは佐須刑事だった。「そりゃ本当なのか」

「……ええ。まあ、言ってもTAC氏は一度きりの特別出演でしたけど。ミオタソの役柄と絡みがあったかどうか、おぼえてないですなあ」


「いや、これは大収穫だ」刑事は鼻息が荒い。「降霊会参加者の誰も被害者との接点が見つからなかったんだが、これでひとつできた。──野上美緒のやつ、あえて黙っていたのか、それとも忘れていたのか……」

「TAC氏とミオタソのあいだに、過去に特別な関係があったかもしれないし、なかったかもしれない。いずれにしても犯人はミオタソに死体を見せたかった(・・・・・・)可能性があります。これは死体遺棄の動機①として、考えておくべきでしょう」

「ほかにも動機があるのか」


「ええ、ほかに考えられるのは、あの場所が降霊会の会場だったということです」

「何ぃ?」

「お分かりになりませんか」目黒はニヤリとしながら、「生贄(いけにえ)的なことですよ。あるいは死者の霊を呼ばうための空っぽの器──すなわち死体が必要だったのかもしれません」

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