【4-7】最終話
「佐須刑事、そして剛流氏……。今回の事件ではあまりお役に立てず、申し訳ありませんでした」
目黒はいきなりソファを立って深々とアタマを下げた。
「──何言ってんのよ。長老との会見をセッティングしたのはアンタだし、それが決定打になったんじゃないの」
「ワタクシは少々くたびれました。ここいらで失礼させていただきます」
「ちょ、」
「ただし」
目黒がかぶせてきたのでアタシはキム●クみたいになってしまった。
「……ただし、心残りがあるといけないので独り言だけはつぶやいて帰ろうと思います。あくまでこれは独り言ですので誰にも質問しませんし、誰の質問も受け付けません。よろしいですね」
よろしいですねって聞いとるやないかい、とは言えなかった。アタシと刑事は目を合わせ、うなずく。
それを合図に目黒はしゃべりはじめた。
ワタクシは、やはり真犯人はべつにいると思います。それも降霊会のあの場所にいた人物です。
犯人は、ずばり山北久美子の弟です。──が、姉とは苗字がちがいます。両親が離婚していて、姉は父方の、弟は母方の姓を名乗っています。
なぜそう思うかというと、姉は供述にあったとおりガレージ付きの戸建てに住んでいて、たぶんそれは父親の家ではないかと。
つまり山北姉弟にとっての生家です。だから弟もたまに帰ってきますし、姉弟の仲はけっして悪くない。
いや、それどころか、ふつうの姉弟より強力な絆があるかもしれません。親の離婚によって引き離されていた時間があったぶんだけ……。
弟は姉の過去──TAC氏との一件も、もちろん知っています。それはもう殺してやりたいほどに氏を憎んでいたことでしょう。
ところが姉のほうは、わりとあっけらかんとしている。
いま自分が従業員として入っているデリヘル店のお客にTAC氏がいることを、さもおかしそうに弟に話してしまいます。TAC氏が乱交パーティを望んでいることも。
姉がTAC氏と連絡する手段を有している、しかも乱交をエサにすることで彼を秘密裏に呼び出すことができる。
弟のなかで、おそろしい犯罪計画が首をもたげはじめます。
決定打は降霊会のリハーサルでした。
ひとりのタクシー運転手が紛れ込んできたことで、弟は悪魔的なひらめきを得るのです。
成増健吾──このときは名前も定かでない男に、すべての濡れ衣を着せる。わざと彼をインフェルノミサワ氏と間違えることによって、ね。
実際、ワタクシもこの奇跡の運転手にかなり首ったけでした。
彼に鉄壁のアリバイがあると分かってからも、なお共犯者として疑ってかかったくらいですから。
それくらいのインパクトが運転手にはあった。
もちろん弟にそこまでの計算があったかは知りませんが、とにかく自分から目を逸らさせるには、うってつけの存在だったのです。
リハーサルのあった木曜日に死体遺棄の布石を打った弟は、金曜日、いよいよTAC氏殺害の準備にかかります。
その日、姉久美子は夜勤明けだったのではないでしょうか。
自宅へ戻るなり職場で使っているスマホは電源オフ──充電ケーブルに差して、姉はそのまま寝てしまう。
そこへ弟が帰ってきて、どうどうと姉の職場用スマホからTAC氏に電話する。これが金曜日13時ごろに氏が受けた電話の正体です。
通話の内容は──もういいですね? 乱交パーティに参加できるとウソを言って、TAC氏を適当な駅におびき寄せる。
翌日の土曜日、弟はバンに乗ってTAC氏を迎えに行きます。
駅で氏を拾うと仕事で使っている資材倉庫へまっしぐら。職業がら、使用できる倉庫は何拠点もあるかもしれませんね。
で、姉久美子が話していたように、あらかじめブルーシートで養生したスペースにおいてブスリと殺るわけです。
死体を段ボール箱に詰めると機材運搬用の黒コンテナ──ミサワ氏が話していたあれです、にそれを隠し社用バンに載せます。
弟が車を専有できない場合、コンテナの積み込みは明日の本番に延ばしたかもしれません。
いずれにしてもコンテナは大活躍です。大量に血を含んだブルーシートや、凶器の刃物すらそこへ隠せるのですから。
本番の日曜日、弟はもうひとりのスタッフと一緒に13時にミサワ氏宅へ入ります。
バンには死体が積んである──相方の横浜アキコ氏には、もちろんそんなことは知るよしもありませんがね。
ミサワ氏の話ではライブの仕込みはリハーサルの日に済んでいたそうですが、そこは弟もプロ、適当にあれが足りないなどと言ってバンに機材を取りに行ったのではないでしょうか。
もちろん目的は機材ではなく黒コンテナ、つまり死体入りの段ボール箱を積み降ろすことだったのです。
相方の横浜氏は自分の持ち場で手一杯、弟にとって仕事を完遂する隙は十分にあったはず。
さて、姉久美子がなぜ自分が殺ったなどとウソの自供をしているかについてですが、これは最愛の弟を庇う以外の何ものでもありません。
弟ヨウスケも、まさか姉がこんな行動に出るとは思ってもみなかったでしょう。
でも、ぜんぶではないにせよ、彼は一連の犯行について姉に仄めかしていたはず……そうして、きっとホメてほしかったんです。
──長々とお話してしまいましたが、ワタクシの独り言は以上です。んちゃ!
「最後、アバレちゃんかよ……」
立ち去る目黒。それを見送りつつ佐須刑事がつぶやく。
ドクターストップ・アバレちゃん──。人気漫画ドラゴン球体の終了とともに漫画家を引退した秋山鳥男の、連載デビュー作品である。




