【4-5】
けっきょく、落ち着いてインタビューができる環境ということで、半個室になっている居酒屋チェーン店に場所を決めた。
6月ですでに気温は高く、しかも秋葉原のこの熱気だ──アタシはもうビールを飲む気満々だった。
18時少しまえに長老こと青山ケイイチ氏があらわれた。目黒に負けず劣らず、いや輪をかけてヲタク全開のファッションである。
上からバンダナ、チェックのネルシャツ、指あきの革手袋、ストーンウォッシュのジーパン……もちろんシャツは「イン」している。そして何が入っているか知らんがクソでかいリュック。
むかし読んだ漫画ドラゴン球体に出てきた、ナメックス星人の長老をアタシは思い出していた。
「お久しぶりです、長老。こちらはワタクシの友人で探偵の剛流氏です」目黒がアタシのことを紹介する。
「はじめまして、青山です。──これはまた、お美しいご友人ですな目黒氏。萌えぇ……」
「剛流です。今日はお時間を取っていただき、ありがとうございます」
全身を舐めまわすように見てくる長老に苦笑で返す。インタビューは目黒にまかせて、ここは飲み物や料理のオーダー役に回るのが得策かと。
目黒はお酒がまったく飲めないのでウーロン茶、アタシはもちろんビール、長老はカシスオレンジを1杯目に注文した。
「さっそくですが資料、と言いますか写真を見ていただけますか」
目黒が山北久美子の写真を渡す。それを見るなり長老の顔が変わった。
「れ・じぇ・ん・どキターーーーッ!!」
彼は叫びガッツポーズする。
ウソでしょ、そんなにごろごろレジェンドっているものなの?
「いや、おどろいた……。目黒氏、この写真をどこでゲットしたんです」
「くわしい事情はお話できないのですが、剛流氏が現在調査中の案件になります」
上手いこと目黒はボヤかす。警察が捜査中と探偵が調査中では、彼が言うところの天国と地獄くらいの差がある。
「たしかに、年齢を重ねて表情が険しくなったかな」長老は感慨深そうに、「元々つり目がちでしたからね、それにこの涙黒子──まちがいない、クーミンこと山北久美子ですわ」
「長老がご存じということは、彼女は地下アイドルだったので?」
「地下……うーん、微妙ですなあ。公式にはそうなるか」
目黒もそうなのだが、ヲタクはやたらと公式・非公式という言葉を使いたがる。きっと意見が分かれるところなのだろう、知らんけど。
「彼女をAKB35の初期メンバーとする見解もあるのですよ」
「AKBって、あの?」
言わずと知れた国民的アイドルグループ──だったというべきか。ここ数年で急激に失速している感が否めない。
「公式には、クーミンはAKBの前身であるオクトパス・ナインのメンバーでした」
ちょっと待って。さっきから、会話のなかにちょこちょこ《35》や《9》という数字が出てきているんですけど!
占い師吉田の話をまだ目黒にしていなかったのでアタシはやきもきした。
「寡聞にして、そのグループは存じ上げませんでした」
「アキバのアイドル文化──その黎明期を支えた最大の功労者がオクトパスだとワタシは思っています」しみじみと言いながら長老はカシスオレンジに口をつける。
「オクトパス・ナインはその後、どうなったんですか」
「グループは解散、メンバーの幾人かがAKBに吸収されましたがクーミンはじゃないほうでした」
「解散の理由は?」
「はっきりとは分かりません……ただ、」と彼は声を潜め、「メンバーの誰かが妊娠したとか、そんな噂は耳にしました」
噂で、誰かが、では心許ない。目黒もアタシとおなじことを思ったらしく、
「クーミンの当時の情報など、もしご存じであれば教えてください」
「残念ながら……」と長老は首を振る。
「話は換りますけど、ミオタソ──野上美緒をおぼえていますか」
「……ああ、ドラマ『快速男』の。なつかしいですなあ」
「彼女も、たしかアキバ出身でしたよね。メイドカフェの店員さんをしているときに芸能プロダクションにスカウトされて……」
「そうでしたそうでした」長老がかぶせる。「じつは──これはかなりのレア情報ですぞ? いま言ったオクトパスにミオタソが加入するという噂がありました」
「ほう」目黒が身を乗り出す。
「けっきょく彼女は快速男のほうでブレイクしたものだから、その話は流れちゃいましたけどね」
「すると、ミオタソはオクトパスのメンバーとも交流があったので?」
「仲はよかったと思いますよ。……そうそう、オクトパスのライブにミオタソが遊びにきたのを一度だけ観ました」
アタシと目黒は同時に目を合わせる。いまのは、とんでもない情報である。
「クーミンとミオタソがステージ上で抱きあったりしてね──もう二度と再現できない、萌えぇな状況でしたよあれは」




