【4-4】
占い師吉田と入れ違いで目黒が事務所へやってきた。
まったくこの人たち──佐須刑事もだけど、アポを取るっていう概念がないのかしら。
「剛流氏! ワタクシ、ひらめきましたぞ」すごい鼻息だ。
「何、どうしたの」
「写真はどこですか」
「……写真?」
「デリヘル業者ファンファーレの、スタッフ4名の顔写真ですよ」
「──ああ、」
今度の事件の捜査資料から彼の所望する品を取り出した。
これらの写真は佐須刑事の計らいによって特別に複製してもらった。オリジナルはもちろん警察で保管されており、すでに野上美緒への面通しに使用されている。
「まだ業者のスタッフを疑っているの? 野上美緒は、その4人は誰も見おぼえがないって……」
面通しはアタシの提案だったが結果は肩すかしに終わった。写真を持ち出して、目黒はいったい何をするつもりなのか。
「ワタクシたちはこれまで、ミオタソに囚われすぎていたのかもしれません。成増健吾が彼女の元マネージャーということもあり、ついつい視野が狭まってしまった」
「どういうこと?」
「ミオタソと成増、あるいはミオタソと誰それ、という考えからいったん離れてみる。むしろ成増を中心にしてみるのが吉かもしれません」
「彼はアリバイによって実行犯からは外れたんだよね」
「ええ。なので彼が共犯者であり、実行犯はべつにいるのです」
「まさか……実行犯がデリヘル業者のなかに?」
目黒は4枚の写真から1枚をピックアップすると、
「実行犯は成増の元カノ説──というのは、いかがでしょうか」
ファンファーレのスタッフ4名のうち、女性はただひとり。写真の裏に名前と年齢が書かれている。
山北久美子(34歳)──。
「ウソでしょ。女性がTAC七郎を刺殺して段ボール箱に詰めて、降霊会の会場まで運んだっていうの?」
「不可能じゃありません」
「そりゃそうだけど……」
「問題は成増・山北の現在の接点ですが、これは彼らにとって生命線ですから、ぜったいにバレたくないところでしょう」
「ちょっと待って。まだ山北が元カノだって確定してないでしょ」
「そうでした」と目黒は舌を出し、「その仮説をこれから検証します。秋葉原に行こうと思いますので剛流氏、つきあってください」
「秋葉原? ……どうして」
「時間がもったいないので歩きながら話します」
*
外に出ると午後の陽ざしが否応なしに照りつけてきた。
いつの間にか6月、最近はずっと事件にかかりきりになっている現実にイヤでも気づかされる。
「目黒くん、まえから聞きたかったんだけど」
「何でしょうか」
「そのヲタクファッションのルーツって何なの。元祖ヲタクのTAC七郎はそんな恰好をしていない──ていうか、それって浜本恭吾のスタイルだよね?」
浜本恭吾。言わずと知れた、一部に熱狂的なファンを持つ日本のベテラン歌手である。
バンダナ、Tシャツの肩まくり、ストーンウォッシュのジーパンなど、どれも彼からきているような気がしてならない。
唯一のちがいはグラサンの有り無しくらいか……。
「ハマキョーのスタイルがわれわれヲタのファッションに組み込まれた経緯については諸説ありまして、」
と、そんなどうでもいい話をしているうちに最寄り駅に着いてしまった。
駅のホームや電車内で事件の話ができるはずもなく、けっきょく秋葉原に到着してから目黒はしゃべりはじめた。
アタシたちがヲタクの聖地に足を運んだわけを──。
「これから長老と会います」
「誰、それ」
時刻は17時にもなろうとしていた。日曜日の秋葉原、すごい人出である。
「アキバのヲタク文化、とくに地下アイドルに明るいかたで青山ケイイチさんとおっしゃいます」
地下アイドル……。
かりにもアタシたちは捜査の一環でここへきているのだ、目黒がフザケているとはとても考えられない。
「地下アイドルをTAC七郎が好きだったとか、そういうこと?」
「平たく言えば、そうです」目黒は真剣な顔で、「ワタクシは山北久美子がそっち系の出ではないかと考えています」
「野上美緒とおなじ、芸能関係ってことね」
「はい。成増はマネージャー時代にミオタソではなく、ほかのアイドルとつきあっていた──それが山北だったのではないか、というのがワタクシの仮説です」
その仮説が成立するには、前提として山北が元アイドルでなくてはいけない。それで長老の出番というわけか……。
「長老は今日、某アイドルグループのイベントに参加していて、もうそろそろそれが終わる予定です」
「長老って、おいくつなの」
「40代半ば。ワタクシたちより、ひと回りくらい上だったと記憶してます」
「なるほど」年の功よりヲタの好ってわけね。
「インタビューの場所はどこがよいかと長老にお聞きしたところ、メイドカフェがと……」
「え、」
「もちろん却下させていただきました。インタビューに集中できないですからね、ワタクシが」
お前がかよ! と、つっこんでみる。




