【4-3】
翌日、事態が急転直下、事件は異様な様相を呈しはじめた。
佐須刑事によって成増健吾への任意の事情聴取が行われたのだが、なんと、彼に鉄壁のアリバイがあることが判明したのだ。
TAC七郎の死体が三沢宅の玄関先で発見される2日前──17日金曜日、成増は午後の飛行機で北海道の実家へ帰省している。
波多野市の現在の住居に戻ったのは日曜日の夜で、だから彼にはTAC七郎殺害も死体遺棄も不可能だった、そういう結論に至った。
並行して野上美緒への写真の面通し──デリヘル業者ファンファーレのスタッフ4名すべて──も実施されたが、野上は誰も知っている人物はいないと首を振るのみだった。
目黒にとっては、かなりショックが大きかったようだ。
まあ、あれだけ声高に成増犯人説を唱えていたのだから、仕方ないっちゃ仕方ない。
でもあのヲタクはまだあきらめていない……というか、考え方自体は間違っていないと主張して譲らない。
成増は実行犯たり得なくても共犯者には十分なり得る。彼が得た降霊会や三沢宅に関する情報をそのまま横流しすることで、べつの人間であっても犯行は可能である、と。
たしかに、事件が起きた最中に都合よく北海道へ帰省中だったとは、かなり不自然な感じはする。
ようするに成増は、自分が疑われるのを承知であらかじめアリバイ作りを画策していた。思ったより賢いやつだ、とアタシの友人目黒は臍を嚙んでいた。
捜査は行き詰ったかに思えた。そのとき、ひとりの女性……というか熟女? がウチの事務所を訪ねてきた。
「アンタかい、探偵の姪っ子てのは」
まるきり老婆のような声としゃべり方だった。が、当の彼女は背も高く姿勢もよく、50歳そこそこくらいにしか見えない。
「……あの、どちら様ですか?」
「占い師の吉田じゃよ」彼女はヒヒヒと笑い、「ちょっとまえにハワイから帰ったところじゃ」
思い出した! 佐須刑事が最初にウチにきたとき、叔父が不在なら吉田さんと連絡が取りたい、と言っていた例の占い師だ。
彼女はしばらくハワイにいると叔父のメールに書いてあった気がするが、予定が変わったのか、それとも気が変わったのか……。
「あっ」とアタシは背筋を伸ばし、「いらっしゃいませ。どうぞ、お入りください」
彼女を事務所のなかに入れてソファに座らせた。
「今日はどういったご用件で?」
湯呑み茶碗をテーブルに置きつつアタシがたずねると、
「微力ながら助太刀に参った」吉田さんはずず、とお茶を啜る。「……うまい」
「それは、佐須刑事がいま担当している事件のことですか」
「まあ、そうじゃな」
困ってしまった。いくら概要を知っているからと言って、事件のことをベラベラしゃべっていいものなのか……。
そんなアタシの胸中を察したかのように、
「いやいや、何もワシは捜査の手伝いにきたわけじゃあない。占いをしに、な」
ちょっと何言ってるか分からない。占う──て、事件の行く末を? まあ、べつに害があるわけじゃないし、好きにやってもらおうと思った。
「吉田さんは、どんな占いをなさるんですか」
「なに、ちょっとしたテレホン占いじゃ」
言って彼女はスマホを取り出した。
「テレフォン?」
「お宅の番号は04XX-XX-XXXXでよかったかの」
聞き返すアタシに被せるようにして吉田さんは確認してきた。どうやらウチの事務所の番号がスマホに登録されているらしい。
「あ、はい。それで合っています」
「これからワシがかけるが、電話には出んでいい。表示された番号だけ見てくれ」
「──?」
番号表示のことを言っているのだろうか。いちいち聞き返すのも面倒なので、言われるまま電話が鳴るのを待つ。
……したらば。
何これ、見たこともない番号が表示されている。しかも桁数がおかしい。たったの3桁「935」て。時報か、番号案内か。
「番号をメモしたかえ?」呼び出し音をかき消すくらいの大声で吉田さん。
アタシがうなずくと、彼女は呼出を中止した。
「何ですか、この番号」
「占いの結果じゃよ」
「この番号に電話をかけろ、ってこと?」
「知らん」
知らんのかい。試しに固定電話からかけてみると、案の上そんな番号は存在しません、と。
するとアレか──暗示的なやつだ。935が何かを暗示しているのだが、それが何かは分からない。めんどくさいやつだ。
吉田さんはお茶を飲み干すと、
「ではの」と言って早々に帰ってしまった。
ノーヒントかよ!




