【1-1】
ヲタクという言葉をはじめて聞いたのは中学生のときだった。
当時、連続幼女殺害事件の容疑者・遅崎早夫が世間で話題になっており、その遅崎がヲタクっぽかったことからヲタクという概念は一躍全国区となった。
つまり、遅崎登場以前にヲタクはすでに存在したのだ。
元祖ヲタクはタレントのTAC七郎だとオレは思っているし、世間的にもその呼び声が高いようだ。
不潔感たっぷりのロングヘア、ダサい眼鏡、おもちゃのマジックハンドで彼はスターダムへとのし上がった。スターはちょっと言いすぎか……。
そもそもヲタクの語源は「あなた」のことを「お宅」と呼ぶことからきている。だがヲタク同士が「お宅は、」と呼び合っているのをオレは一度も聞いたことがない。
かつてはそうだったのかもしれないが、自然淘汰的にその呼び方は廃れてしまったらしい。
語源は滅んでもヲタク自体は滅んでいないところがたいへん興味深い。
ヲタクが気色いマイノリティから一大ムーブメントに変貌するには、2000年代半ばから2010年代初頭にかけて華やいだ「アキバ文化」の到来を待たなくてはならない。
が、その話はもう少しあとにしよう。
当時オレが好きだったアニメはゼータ・ガンダーラ。
これはリアルロボットアニメの先駆けであるガンダーラの続編で、テレビで放映されたのはオレが小学生のときだったが、それから何年かしてひょんなかたちで再注目・再評価されることになった。
それというのも上記の遅崎容疑者がこのアニメをビデオテープに録りためていたという事実が発覚し、いわゆるヲタクっぽいアニメとして、ゼータは不名誉なかたちで有名になってしまったのだ。
ガンダーラと言えば無印(初代)が圧倒的に人気で、今日でもヲタクの間で知名度・評価ともに高い。
でもオレにとってはちょっと世代が上だし、やはりゼータのほうに馴染みがあった。
当時オレが好きだったマンガはドラゴン球体と、じぇじぇじぇの微妙な冒険。
どちらも国民的マンガとして、いまでも多くの支持を集めているが、この2作品はある意味で好対照と言える。
ドラゴンスフィアは当初、中華風冒険マンガとしてスタートしたが途中からハイパーバトルマンガへと変貌を遂げ、再三の引き延ばしを経て完結した物語。
主人公の孫正義は国民の誰もが知るほどに有名だ。が、作者の秋山鳥男はこの作品を最後にマンガ家を辞めてしまった。
じぇじぇじぇの微妙な冒険は、なんと2019年のいまも連載が継続中だ。
ただ、部タイトルと掲載誌が変わっているので、オリジナルと呼べるかは微妙なところである。
これは主人公じぇじぇじぇの一族が子々孫々に至るまで因縁を持ち、バトルを繰り広げるという物語で、とにかく部構成が壮大なのだ。
部ごとに登場キャラもストーリーも異なるのだが、どの話にも熱狂的なファンがついている。
まさにマンガ家冥利に尽きるとでも言うべき作品で、作者のヒロアラヤはおそらく、死ぬまでこの作品を完結させないのではないかとすら思わせる。