ひよこ殿下……。婚約破棄ごっことか「俺様になって」とか、お戯れもほどほどになさいませ
猫じゃらし様主宰「獣人春の恋祭り」企画参加作品です。
異世界恋愛ベースの、ヒロインがちょっとだけお下品なハイテンションお馬鹿ラブコメです。ちょっとだけ。のはず。
ジェレミー殿下のドレスの袖口から伸びた美しく白い右手が、持っていた紅茶のカップを実に優雅な動きでソーサーに置いた。次いでその同じ手がやはり優雅な動きでつい、と上げられ僕に真っ直ぐ向かって指をさす。
「オクター。そこへ直りなさい!」
こうなると殿下の婚約者という立場として、僕は嫌々でも付き合うしかない。
「はい、ジェレミー殿下」
「本日この時、私とあなたとの婚約は破棄致しますわ!」
「はあ」
僕の気の抜けた返事に、殿下の柳のような美しい眉が歪む。
「ねえ! そのやる気のない返事は何? もうちょっとちゃんと相手をしてよ。ふざけてるの?」
僕は溜め息を吐きながら、二歳年下、まだ12歳の婚約者を改めて見た。
雪のように白い肌はふっくらとした頬だけが薔薇色に色づいている。結わずに背中に流しているたまご色の細い髪の毛はふわふわと自然にカールしていて、触れれば溶ける繊細なわたあめのよう。オレンジに近い赤色に艶めく唇は天然のそれで口紅要らずだし、僕を睨み付けている若葉色の瞳は削りだした橄欖石かと思うほど煌めきを放っていた。
その美しさは見るだけでこちらの心が乱されるほど。ああ、まだ黄色いひよっこの癖になんでこんなに色気があるのか。
殿下はまるで人形のように美しい。……いっそのこと人形ならどんなに良かったか。外側とのギャップの極致であるキチ●イな中身に頭を痛めることもなく、ただただ眺め、そして着せ替えて愛でてと存分に楽しめるのだから。
「殿下こそ、お戯れもほどほどになさいませ。場所が場所なら大騒ぎになりますよ」
ジェレミー殿下は薔薇色の頬をぷくっと膨らませる。
「だから場所をちゃんと選んでやってるじゃない。ほんとは夜会で言ってみたかったけど!」
「それはごっこ遊びの域を越えています」
ここは鳥人の国。僕達は今、その中心である王宮の中庭にある四阿でお茶会の最中。殿下と僕は婚約者として月に一度はお茶をする約束になっている。今日はその約束の日で、僕は殿下から贈られた絢爛豪華なたまご色の燕尾服に袖を通し王宮に馳せ参じた。今ここには僕達二人と、お茶を給仕してくれる侍女達しかいないのだから婚約破棄ごっこもギリギリ許される。
先日、とある夜会で伯爵令息が婚約者に婚約破棄を突如叩きつけたというセンセーショナルな出来事があった。その後、愚かなことに彼の真似をして自身の婚約を反古にした下位貴族もいるとか。最近は噂好きの貴族が集まるとその話題で持ちきりになる。王族でありながらゴシップや噂話が大好きな殿下はどこからかその話を聞きつけ、「ごっこで良いから婚約破棄を宣言してみたーい」とのたまっ……ゴホン。仰せになられたのだ。
「つまんなーい。オクターったらノリが悪いんだもん!」
「ノリが悪いも何も、ノレる訳がないでしょう。僕の立場ではたとえ冗談でも婚約破棄など恐ろしくて受け入れられません」
今この婚約が白紙になったとしたらとんでもない事になりそうだ。未熟な僕にはまだ政治の世界はわからない。けれど父であるスワロー侯爵への影響は小さいものではないだろうし、何よりもこの見た目は麗しく中身は【自主規制】な殿下の手綱を抑えられる新たな婚約者候補などいるだろうか?
「ん? オクター。今、私の悪口を頭の中で考えなかった?」
ぎくっ。殿下は時として野生の獣かと思うほどカンが鋭くなる。僕はすました顔をして、先日読んだ恋愛小説の一節をそらんじてみせた。
「いいえ、とんでもない。僕の美しい小さな姫様に愛以外を思うなどあるものですか」
殿下はピヨピヨピー! とでも言いそうな黄色い声で笑いだす。
「きゃはははは! 今のは良いね! そういう事にしておいてあげる!」
殿下は楽しそうに笑いながら長椅子に敷き詰められたふかふかのクッションへ、ボスンと音が立つほど乱暴に倒れ込む。大袈裟に足を上げたものだからドレスの裾が空気をはらんでふわりと膨らみ、中のドロワーズの裾がチラリと見えた。……見えてしまった。うわっ。ドロワーズを履いてるなんて!
「殿下、はしたないですよ」
「いいのいいの。どうせ私は『うつけ殿下』だから。それより、しっかり見たでしょ? オクターのえっち」
僕の頬にカッと血が上った。えっちって! 言うに事欠いて!! ていうかアナタに言われたくない!!
「殿下!! お戯れを……!!」
「あははっ! ごめんごめーん。ちょっとからかいすぎたかな?」
ああ、もう本当にこの「うつけめ!」と罵ってやりたい!!……だめだめ。誰かに見咎められでもしたら不敬罪になりかねないし、何よりこのク●ッタレ殿下は罵られたら喜びそうだもの。
オクター落ち着け、深呼吸だ。ひっひっふー。ひっひっふー。
「なにその呼吸法。面白いね」
「最近学びまして。出産時に良いそうです」
「ふうん。役に立つといいねえ」
殿下は頬杖をつきながらニヤニヤしてそう仰せになった。もうイヤ! この人の相手するとめちゃくちゃ疲れる……。サッサと帰ろう。
僕はカップに残された紅茶を飲み干すとニッコリと微笑み、暇の挨拶をしようとした……が、殿下はまた野生のカンでそれを察知したのか、微笑んだ瞬間に先手を取られてしまう。
「オクター、ダンスがしたくなったからちょっと付き合って」
「は、ダンスですか」
「そう、今すぐ。あなたと。ココで」
殿下は中庭の芝生を指差す。ご丁寧にも今すぐあなたとココでって、ダンスの先生を呼びましょうとかまた後日って逃げ道をぴっちり塞ぎに来てる。このワガママ王族め!
「……わかりました」
僕は諦めて立ち上がった。ワガママと言ってもダンスくらいなら可愛いものだ。以前、金で成り上がったフォアグラ伯爵が更に成り上がろうと殿下にすり寄った時など酷いものだった。
殿下は「じゃあ黄金の葉と真珠の実をつけた銀の枝を探してきて」と仰せになった。その伯爵は装飾品職人に命令してなんとか1ヶ月半ほどかかって物を作らせたは良いが、それを献上しようと見せたところ殿下は何と言ったと思う? 恐ろしいことに「ん、そんなこと言ったっけ? 昔のことだから忘れちゃった! そんなの要~らない!」と言い放ったのだ。
まさに陰の渾名「うつけ殿下」にふさわしい振る舞いだと思う。これが国を治める王族のひとりだなんて頭が痛くなりそうだが、幸いにしてジェレミー殿下には実に秀でた兄殿下がいらっしゃる。立派な冠と、虹色の長い尾羽と、全ての兵士の目を覚ます鬨の声を持つ見事な鶏の鳥人だ。彼が未来の国王の予定なので国を憂う必要はない。
一方、なかなかひよこから成体の姿になれず、毎日毎日ピヨピヨピーと馬鹿な言動を繰り返すジェレミー殿下はすこぶる評判が悪い。僕とスワロー家はハズレを王家に押し付けられたと周りから思われている。
……まあ僕はハズレだとは思ってないけどね。
そのハズレ扱いと、僕はガゼボから芝生に歩み出て広いところで向かい合う。
左手を差し出すと、何故か殿下の右手はその下をスルリと掻い潜り僕の背中を抱いた。
「今日はこっち」
え? まさかリードを取りたいの?
「いや、でも」
「なに? 私が男役じゃ不服?」
不服もなにも。僕、自分より背の低い人にリードを取られたことが無いから上手く踊れる自信が無いんだけど。でもそんな事殿下に言えな……あ、カンの良い殿下に伝わっちゃった? 若草色の瞳が上目遣いにこちらを睨んでる。
……あ! そうだ。前に殿下が「オクター、小説に出てくる俺様ヒーローの真似をやって見せて!」って言ってたワガママを叶えてあげよう。
「こら、俺を困らせるなよ、かわいこちゃん」
僕は殿下の綺麗な弧を描く顎に手を掛け、くいと持ち上げて顔を近づけた。
「君は俺に身を委ねていればいい。悪いようにはしないから」
「……!」
ガゼボからごく小さく「まあ」と言う声が聞こえたので顔は動かさず目だけチラリとそちらにやると、僕の侍女が口に両手を当て、目を潤ませてウンウンと頷いてた。王宮の侍女達もぽうっと見とれている。うん。僕の演技は彼女達から見て及第点を取れたみたい。
視線を目の前の殿下に戻すと、こちらは宝物を見る少年のようなキラキラした目で僕を見上げていた。
「オクター、最っ高! こないだ言ったの覚えていてくれてたんだ!!」
そう言って殿下は僕に抱きついてくる。ふわふわのたまご色の髪の毛が僕の鼻先をくすぐった。いい匂いだなあ。なんか悔しい。
「では殿下、改めて。僕と踊ってくださいますね?」
「うん!」
僕は左手で殿下と手を組み、右手は背中に回してステップを踏む。実はリードもそれほど上手じゃ無いんだけど、練習したからまあまあ見れるレベルだと思う。それにジェレミー殿下が上手く合わせてくれてるのもあるし。その殿下は笑顔でくるりとターンをすると髪とドレスがふんわりと広がり、日の光を弾いて輝いた。その様は軽やかで美しく、まるで妖精のよう。
音楽もないのでひとしきり踊ったら終いにして体を折る。侍女達がお愛想の拍手を送ってくれた。
「ふふ。汗かいちゃった。ちょっと部屋で涼もうよ」
殿下に手を引かれ、中庭から王宮に戻るとでっぷりと太ったひとりの貴族がこちらに寄ってくる。あ、あのガチョウらしきヤツはいつぞやの成金伯爵じゃなかったっけ?
「これはこれはジェレミー殿下。今日も実にお美しい」
「ん? そうお? ありがとうフォアグラ伯爵」
「いやあ、それに加えてダンスの腕前も素晴らしいですな。今見ておりましたが溜め息が出ましたぞ」
「ははは、そこまで言うとおべっかも気持ち悪いよ」
「おべっかなんてとんでもない! そちらのスワローのお子様とだけでなく、是非とも次の夜会ではうちの娘とも踊って頂きたいものです。いや、息子かな?」
成金伯爵はそう言うと僕の方を意味ありげにチラリと見た。
「だめだめ。オクターは私のもの! 誰にもあげないからね!」
「えっ」
「いこ! オクター」
「殿下!」
戸惑う僕を引っ張ってジェレミー殿下はずんずんと進む。あっという間に王宮の深部、殿下の私室にたどり着いた。
「人払いを」
「しかし……」
部屋に入るなり殿下は侍女や従僕達に命じる。でも彼らは素直に従うべきか躊躇っていた。無理もない。いくら婚約者とは言え、未婚の男女を部屋に二人きりで残すのは流石にまずいと考えたのだろう。
「なあに? 私がオクターに何をすると思ってるの?」
殿下は意地の悪い目付きをした。
「私は声変わりも精通もまだの子供なのに、何をすると? ねえ、言ってみて?」
「いえ……失礼致します」
侍女達は気まずそうに目を伏せて部屋を出た。出ていってしまった! あわわ、ほんとに二人きりに……。
「オクター、こっちへ来て」
僕の背中にねっとりと甘く低い声がかかる。
「は」
「何をそんなにビクビクしてるの? ふふ。可愛い。ヒナみたい」
ヒナはあなたでしょうに! ……ってちょっと待って。
「殿下、お声が……声変りがまだってウソですか!?」
「あ、バレちゃった。これを知ってるのは兄上と君だけだからまあいいよね?」
よ、良くない、良くはない。いや、声だけなら良いけど、この状況は良くなくなくなくなく……
混乱している私をまるで獲物を眺めるようにじっと見つめ、ジェレミー殿下が近寄ってくる。私は思わずじり、じりと下がっていくが、すぐに踵が壁にコツンと当たった。横にスライドしようとした私の考えを察知したか、私の顔の真横に殿下の手がすっと伸びて動きを封じる。こ、コレ壁ドンってやつじゃ!?
「オクター……俺のかわいいオクタヴィア」
「殿下ッ」
「大丈夫。君は俺に身を委ねていればいい。悪いようにはしないから」
「それっ、さっき私が言ったセリフ……ひゃんっ」
私の言葉は最後まで言えなかった。その前に殿下が私の首に口づけたから。
「な、何なさるんですかっ!」
「マーキング。だって君が悪いんだよ。そんなにかわいいんだから。せっかく悪い虫がつかないように男装させてるのに」
「うそっ! 単に殿下のシュミでしょ!?」
「あ、バレた?」
ジェレミー王子殿下はいたずらっ子のようなニヤニヤ顔のあと、急に真面目な顔になる。ああっ、この無駄に美形な女装のクッソ似合うド変態殿下め!! そんな顔で見つめられたら逃げられないじゃない!
「いいじゃない。どうせあと2~3年で俺の身体は君の背に追いついて、この黄色の髪の毛も生え変わっちゃうさ。それまでの戯れだよ。愛しいオクタヴィア」
そう言うと、殿下は私の頭の後ろに手を当て、背伸びをして私の唇をついばむようにキスをした。二度、三度。
……と思ったら、ついばむどころかもっと濃厚なキスをはじめ……いや、無理ぃ!!
「ばかっ!!」
私は彼の腕から無理やり逃れた。もう不敬罪でもいいや!
「殿下のバカバカっ、変態! キチ●イ! ク●ッタレ!」
「ごめんごめん泣かないで……でもそんな顔もそそるな?」
「……こっの【自主規制】!!!」
「あはははは! 凄い言葉知ってるねえ!」
「そっちこそ、どこでこんなキスの方法を知ったんですか!」
「ん? そりゃあそういう本でね。君の為に色々勉強したんだよ」
「まだヒナのくせに!!」
「……そうなんだよね。ヒナのくせに色々知りすぎちゃってるから」
橄欖石の瞳を陰らせたジェレミー殿下を見て、私は思わずはっと息を呑んだ。
◇
殿下がこうなったのには訳がある。もともと私達鳥人のヒナは雌雄の見分けがつきにくいが、王家の鶏族はその傾向が特に強い。ジェレミー殿下は女の子の様に美しく生まれてしまった。それだけではない。生後半年で立ち上がり、1歳の時には言葉を理解した。3歳で既に本を読む天才だったのだ。
殿下が男の子であればその優秀さゆえに兄殿下の脅威になり、無駄な争いの種になると思ったジェレミー殿下の母上(側妃でいらっしゃる)は殿下に女の子の格好をさせた。勿論数年でバレるし王宮の深部の者には男の子だと言うのは知られていたのだが、あまりの美しさに外部の者にはなかなかバレずにいた。それで保たれた数年の平和を賢しい殿下が肌で理解してしまったのだ。
やがて殿下は男の子であると周知され、婚約者を選定する期間になっても、殿下自身が女の子の格好をする事をやめなかった。それだけでなくピヨピヨピー! と馬鹿な言動を繰り出す。だんだんと陰で「天才となんとかは紙一重」「うつけ殿下」と呼ばれるようになり、彼にすり寄る貴族はぐっと減った。それでも一部の新興貴族や成金貴族はご機嫌伺いにやってくるが、適当に相手をしている。
そんな殿下の婚約者の座を望む令嬢は勿論少ない。私、オクタヴィア・スワロー侯爵令嬢もできれば避けたかった。だが、婚約者候補の一人としてジェレミー殿下と顔合わせをした時、もしかしてこのひとは噂通りのうつけ殿下とは違うのでは? と思ってしまったのだ。
野生のカンを持つ殿下は、その瞬間私の心を読んだらしくにっこりと美しい笑みを見せてこう仰せになった。
「うん、気に入った! この子に決めた!」
ああ、あの美しい笑みったら! 私はその時点で彼に魅了されてしまったのだ。
◇
「……殿下」
流石にちょっと可哀そうになったので歩み寄った途端。
「つーかまえた! ふふっ騙されたね」
さっきまでの美しさを伴った悲しげな顔が一転、いたずらっ子の少年の顔になる。
「殿下!」
「もう逃がさないよ」
そう言ってぶっちゅぶっちゅ頬にも口にもキスをされまくる。……ちょっと! 言って良い嘘と悪い嘘があるでしょう!!! トサカ(無いけど)に来たわ!!!
「殿下ァー!! お戯れもほどほどにッ!!!」
私の怒りMAXの叫び声に、外で待機していたらしい侍女達が慌ててドアを開け入ってきた。そして呆然とする。そりゃそうだ。どこからどう見ても美少女の殿下が、彼より背の高い、男装の私を拘束してキスをしまくってるんだもの。
「……」
「……」
「……」
暫くの沈黙の後。このうつけ殿下、何と言ったと思う?
「やだ……オクターのえっち///」
もうブチ切れですよ。
「えっちで結構!! そんなはしたない令嬢は要らないでしょう? 今日この場で、私とあなたとの婚約は破棄させて貰います!!」
「え、ちょっと待って! 冗談だから!!」
「私は冗談がわからないノリの悪い鳥人なので! 失礼します!!」
私は真っ赤な顔で王宮から駆け出した。私も完全な成体じゃないからまだ飛べないのよね。すぐさま飛んで逃げたいくらい恥ずかしかったわ。
まあ、そんな訳で。私はめちゃくちゃ怒ったのでジェレミー殿下が何を言ってきても無視した。お茶会もキャンセルしまくったし手紙や贈り物はすべて突き返した。とうとうあのうつけ殿下が折れて「ごめん、本当に俺が悪かった。何でもするから許してください」と我が家を訪れて土下座したので条件付きで許してあげた。
その条件とは。殿下が完全な成体になって結婚するまでは私に指一本触れない事。
夜会のエスコートやダンスすらもダメ。どうせ今までは女装の上ふざけてばかりいるからって理由で滅多に夜会も出てなかったんだから問題ないでしょう?
「え……指一本?」
「文句があるならこのまま破棄で結構です」
「ないない! 文句ない! だから破棄はしないで!」
◇
いやにあっさりと条件を呑んだなと思ったら、この殿下とんでもなかった。
そこから僅か1年で、私の身長を抜いて長身の美青年に。あのふわふわのたまご色の毛も全て抜けつやつやと輝く白い羽毛と虹色の尾羽に生え変わり、頭には燃えるような赤の冠が出来た。
「これで結婚できるね♪」
「なんで……殿下、13歳ですよね? まさか偽物じゃ」
「やだなぁ。偽物なんか用意したらその偽物が君に触れることになるじゃない。絶対にそんなの嫌だもん!」
私はツキツキと痛む頭を抑える。
「ああ、そんな事を仰せになるのは多分本物ですね……。でもどうやって?」
「ふふっ、内緒だよ?」
殿下は私の耳に顔を寄せた。たまご色の毛はなくてもやっぱりいい匂いがする。
「王宮の書庫にある本は大体読みつくして内容を覚えてるからね。その中にある秘術をちょっと試してみただけさ」
「秘術!? それ、生贄とかヤバイ代償を払う奴じゃ……」
「そんな事してないよ。ちょっとセイチョー・ホルモンザイの神に祈りを捧げて宗旨変えしただけ」
「な! それ、今では禁忌とされてる古代の邪教じゃないですか!!」
「大丈夫だよ。10万ページ以上歴史書を読んだけど、今の主流の宗教家達が他の宗教を弾圧する為に邪教だと言い張っただけみたいだから」
「お戯れを!! 王族が宗旨替えなぞしたら国が乱れます!」
「だから内緒にして。ね?」
ジェレミー殿下は美しい顔の前に人差し指を立て、しーっと言った。そしてその顔をこちらに近づけてくる。くそっ、ホントに無駄にホントに美形だからドキドキしてしまう。落ち着けオクタヴィア。深呼吸だひっひっふー。
「あ、その呼吸法。もうすぐ役に立つね?」
「た、立ちません!!」
くっ、このド変態でキチ●イなク●ッタレの、うつけ殿下め!
でも悔しいけど好きっ!!