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入学式1

今まで書いた作品の中でも一番性癖爆発頭空っぽで書きました。最終話まで予約投稿済みなので、気楽にお楽しみいただけると幸いです。


諸君、私には推しがいる。

名前は久羅(くら)スガネ。

和風伝奇風学園乙女ゲーム「君待ち月」というジャンル渋滞気味な作品に登場するキャラである。

一分の隙もなくきっちりと着込まれた学ラン。

切れ長の目に、薄い唇、非の打ちどころもなく整った顔はどこか酷薄な印象。

長めの白髪を片耳だけにかけ、ほんのりと儚く微笑む様は、まさに至宝級の美しさ。マーベラス。アメージング。生まれてきてくれてありがとう。

学生時代に彼と出会ってから、私は他のどんな作品のキャラにも心ときめかなくなり、ひたすらに彼だけを推し続けた。

大人になって、自分で稼げるようになって、いまこそ我が宝物庫を開く時!と発売うん周年ごとのグッズを買い込み、祭壇を作り、同じキャラを一途に想い続けることに時に悩み、葛藤し、最終的に開き直り、そしてまた散財し……。

とにかく、久羅スガネというキャラを推していた。

もはや人生といっても過言ではなかろう。

いや、人生だったのだ。

久羅スガネは、私の人生だった。


そしてその人生は、あまりに唐突に、思いがけぬ短さで終わった。


原因はよく思い出せないけれど、たぶん死んだのだと思う。

気が付いたら私は新しい私として生まれていて、自分の人生には何かが足りないという漠然とした不安を抱きながら、ぼんやりとした幼少期を過ごしていた。

何か大切なことを忘れてしまっている。

何か、いや、誰かを……。

そんな疑問が解消されたのは、意外な瞬間だった。

それは初めて高校の制服に袖を通した時だった。

「私、まさか転生してる!?」

身にまとう古風なセーラーの胸元には、がっつりゲームの舞台である「黒塚高校」の校章と黒塚の二文字が刺繍されていたのだ。

一等の宝くじが当たったことが信じられない人のように茫然自失となる私を、両親は緊張によるものだと思ったらしい。

「どうせ興奮して昨日寝れなかったんでしょ?」

からかう母に新入生の集合場所に放り込まれる。

そして入学式が始まり、私は自分が本当にゲームの世界に転生したことを確信した。


在校生代表の朗々とした声が体育館に響いている。

初めて見るはずの生徒会長の伊豆那(いづな)先輩の顔は、親戚よりも見慣れたものだった。

そして錆がかすかに浮いたパイプ椅子に腰かけた私の隣には、明らかにレベチの美少女。

艶やかで長い黒髪に、桜色の瞳。

まろい頬は高校生活への期待で淡く色づき、可憐さが後光を放っているかのよう。

ヒロインだ!

ヒロインが私の隣にいる!


手が勝手に震えた。

だって、本当に、本当に「君待ち月」の世界に転生したのだとしたら。

あの人に会える。

私の人生だった人。

どんなに好きで追いかけても、絶対に触れることができないはずの人。


「新入生、起立!」


いつの間にか全ての催しが終わったらしい。

前列の生徒から順番に体育館を出ていく。

全身の血が逆流しているみたい。

人間って興奮しすぎると冷や汗が出るのだろうか。

心臓は忙しない鼓動を刻んでいるのに、体は妙に寒かった。


ぞろぞろと歩いていく新しい同級生たちは、当たり前だけど見分けなんてつかない。

だけど彼だけはすぐに見分けれた。


一分の隙もなく着込まれた学ラン。

黒い制服とは対照的な白い肌と髪。

灰色の瞳も相まって、彼の周囲だけ色を失ったようだった。

ツンと正面を見つめる横顔は、水墨画のような静謐さをたたえている。


久羅(くら)くんだ。

久羅くんが、いる。生きてる!


興奮と緊張と歓喜が頂点に達した時だった。

すぅーっと血の気が引いて、意識が遠のく。

「きゃあ!」

横から可愛い悲鳴が聞こえた気がしたが、私の記憶はそれ以降ない。

もうお分かりかと思うが、推しを生で浴びた衝撃で失神してしまったのだ。



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