82)ささやかな貴族会① サクソンと甘い罠
全3話です。
「は? 俺がゲラーと? 何言ってんだお前?」
ソニアから「ゲラーさんと1-Cの貴族でお茶会を開催したいので参加してほしい」と言われた際のサクソンの第一声だ。
まぁ、そうだよね。隣で聞いていた僕でも、容易に想像できる反応だった。
「まぁまぁ、サクソン、事情だけでも聞いてみない?」一緒に誘われているロイ君は、自分もこのあいだの演習で悔しい思いをしているはずなのに大人の対応だ。そんなロイ君の言葉に渋々ながら続きを促すサクソン。
で、ゲラーがクラスで浮いている事と、1-Aの貴族から目をつけられている事を交えて事情を話す。
「1-Aの面倒そうな貴族つったら、、、モギのやつか?」
「そうだね。サトゥルよりはモギっぽいね」
サクソンとロイ君が視線を交わして頷きあう。そうそう、そのモギの奴だよ。多分。
「だけど、なんで俺がそんなことをする必要がある? 俺がゲラーにそこまでしてやる必要はない」とサクソンはにべもない。
「うん。そうだよね。ところで話は変わるんだけど、サクソンはお菓子、好き?」ソニアは唐突に話題をかえる。
「あ? なんでお前にそんなこと答えないといけないんだよ?」
うん。その反応、サクソン結構お菓子好きだな。ちょっと意外。
「実はね、私の友達が今お菓子作りに凝っていてね。味見をしてくれる人を探してるんだ」
「は? だから何だよ、俺が知らねえ奴の作った怪しい物を食うとでも思ってんのか?」
「その友達、、、ノリスって言うんだ」
直後に硬直するサクソン、固まった表情のまま視線だけ僕の方へ向ける。僕は黙って小さく頷いた。それを見ていたロイ君が笑いをこらえながら、サクソンに助け舟を出す。
「ノリスって、この間一緒にサーカスを見に行ったルクスの妹さんだよね。へぇ、お菓子作りに凝っているのか」
「そう、それで舌の肥えた人に味見してもらいたいなって」ソニアが畳み掛ける。
「そうかぁ。それなら確かに貴族が、特に僕みたいな中堅貴族よりもサクソンみたいに普段から美味しいものを食べている人が適任かもね。そして、ゲラーさんもお誘いしてるって訳だね。どうだろうサクソン、ゲラーさんはともかく、ノリスちゃんは知らない仲じゃない。ノリスちゃんの作るお菓子、僕も興味あるからちょっとご馳走になってみない?」
収穫祭の夜、僕がソニアに頼まれた事というのは、リタさんの家を会場にするための許可が欲しいという事だった。
ソニアとマリアは収穫祭の手伝いの最中、作業しながらの中でのノリスとのおしゃべりで「今お菓子作りに凝っている」と聞いて、今回の作戦を思いついたそうだ。
サクソンが妹の事を憎からず思っているのは、僕でもなんとなく感づいていた。その上でこの作戦を立てたのならなかなかエグい。
ちなみにリタさんからの返答は「YES」。ただし、予定している日にちはリタさんは不在なので、好きに使えば良いとの事だった。
「もし、サクソンが来ないなら、中止するしかないなぁ。。。ノリス、楽しみにしてたのに、、、」
ソニアの放った渾身の一言に、サクソンはこれ以上ないほどの渋面を作ったのだった。
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後日。
リタさんの家の前に集まった、僕、ソニア、マリア、サクソン、ロイ君、ゲラー。
呼び鈴を鳴らすと、間髪入れずにノリスが扉を開ける。
「こんにちは! いらっしゃい! 大してお構いできませんが、どうぞどうぞ!」
天真爛漫な笑顔で屋内へと誘うノリスは、それぞれに声を掛ける。
「ロイさん、こんにちは!」
「ゲラーさんは初めましてですね! よろしくお願いします!」
「サクソンさん! この間はごちそうさまでした! 喜んでもらえるかわかなないけど、今日はお返しにお菓子を作りました!」
そのように言われたサクソンはぎこちない動きで
「お、おう。。。俺、、、ロドンの街のめぼしいお菓子は網羅したから、、、、任せとけ、、、」
だんだん小さくなる語尾とともに、目線を下に落とすサクソン。
「そうなんですね! がっかりされないと良いんですが」
というノリスの言葉に何かもごもご言っていたが、とりあえず放っておく事にする。
テーブルにはすでに人数分のカップが用意されており、保温カバーに包まれたポットの中の紅茶も、出番を今か今かとと待ち構えていた。
ノリスはソニアやマリアの手伝うという言葉を断り、「今日はお客様だから」とテキパキと一人で準備を進める。
その姿をぼんやりと眺めていたサクソンが不意にこちらに向き直り、「本当にお前の妹なのか」と改めてまじまじと聞いてきた。
何か言外に失礼な気持ちが含まれている気がする。
そうこうしているうちに、ノリスから提供されたのはクッキーと、小さなプディング。
「もう一つ用意しているから、先に食べてお話ししていてね!」
というノリスの言葉に、僕らは紅茶を片手にノリスの手作りお菓子をいただく。
まずはプディング。スプーンを入れるとフルフルと震えていかにも美味しそうだ。
逃げられないように口に運ぶと、口の中に広がる滑らかで、少し優しい甘さ。噛む事なく消えてゆくプディングは、身内贔屓抜きにして美味しい。
甘さの余韻が残っているうちに、紅茶を含むと、渋みが舌を通過して、先ほどの甘さとの対比が際立つ。
すぐにプディングの続きを口にすると、先ほどよりも甘みが際立って思わず笑みが溢れた。
「あ。美味しい」それまでずっと黙って大人しくついて来ていたゲラーが、初めて少しだけ表情をほころばせる。
「ゲラーさんはお菓子、好き?」マリアの問いに少し戸惑ってから
「好き、、、だと思う」と答える。
「なら良かった」その返答を聞いてマリアは優しげに微笑んだ。
それからしばしお菓子を堪能してから、マリアがおもむろに口を開いた。
「さぁ、それじゃあ食べながらで良いから、ゲラーさんの話、聞かせて欲しいな」




