8)出席番号14番 フライヴァイ=ハナ
今日の日記
誓って悪口ではないけれど、チームBの仲間の一人、ハナは変わっていると思う。
ハナは僕よりも年上なのだけど、本人が「ハナと呼び捨てにしてほしい」と全員に言っているのでそうしている。
その理由もちょっと変わっていて、面白い。
ハナのおばあちゃんは遠い国の出身で、その国にはninjaという謎の兵種が存在しているそう。
ninjaは常に闇に潜み、自分の3倍もある壁を簡単に飛び越え、足音を立てずにターゲットに迫り、音もなく闇の中から敵を討つと、空を飛んで逃げる。
そんな人がいたら戦争なんか起きないんじゃないかなと思うくらい凄いninjaに、ハナは子供の頃から憧れている。
ninjaは異国の王(kunsyu)に仕えるのが大切らしく、ハナはいずれ出会うであろうkunsyuが、もしかしたら隣でご飯を食べている人かも知れないから、みんなに自分のことを呼び捨てにさせていると言っている。
ちょっとよく分からない理屈だ。
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「ルクス殿はどう思われるでござるか?」
ハナに聞かれてこの僕、ルクスは不覚にも人の話を聞いておらず「ごめん、何が?」と間抜けな返事をするしかなかった。
ハナは人を呼ぶときに”殿”という不思議な敬称をつけたり、たまに会話を「ござる」という謎のワードで締めるのだ。
持っている能力は優秀だし、長い黒髪が特徴的な可愛らしい娘なのに、この独特の言い回しが原因でチームAから避けられたという経緯もある。
「む、もうすぐ対抗戦の新入生練習会があるという話でごさるよ」
学園には年に2回、対抗戦と呼ばれる全学年混合のトーナメントがある。各学年3クラスあり、そのクラス内でも3チームに別れているので、合計27チームが存在。
その全チームがトーナメントで戦い、優勝を目指すというものだ。チームAのサクソン達が鼻息荒く勝利を目指しているやつね。
単純に考えれば3年間在籍して経験を積んだ3年生が圧倒しそうなものだけど、これがなかなかどうして、結構波乱があったりすると聞いた。
まぁ、鼻息の荒くない僕たちにはあまり関係ないけれど。
いきなりぶっつけ本番では、1年チームはあまりに不利なので、本番でも戦うチームと事前に練習試合が行われ、多少の準備期間が与えられると聞いた。
対戦相手にもこちらの手の内が分かってしまうけど、どうなんだろ?
「己を知り、敵を知れば、10戦10勝という言葉があります」
ハナが言う。なにそれ、おばあちゃんの国の言葉?
「いえ、これはまた別の国の故事です」
あ、そうなの。
故事はともかくとして、ハナはチームAに入れなかったものの、チームBの中では比較的向上心があり、「対抗戦となれば勝たねば」と言う思いがあるようで、それをみんなに訴えていた。。。。。ようだ。
なにせ今日は天気が良く、柔らかい日差しが僕たちに降り注いでいる。
いつものように昼食を終えた僕たちに、この日差しはおあつらえ向きののんびりとした空気で、僕に限らず、みんながウトウトとしていた最中。ハナの言葉は申し訳ないけれども心に響くことはなかった。
ただ、質問された以上は僕もそれなりにちゃんとしたことを返さなければと、ぼんやりした頭を頑張って回転させる。
「、、、、ハナの言った通りじゃないの?」
「何がでござるか?」
「その、敵を知り、、、だっけ? 狩だって相手の出方がわかれば、凄くやりやすいから。まずは相手のことを知らないと」
「だから練習試合をするのでは?」
「じゃなくってさ、練習試合の前に偵察しておいたら、もっと有利になるんじゃないかなって」
「なるほど! ちょっとフォル先生にやって良いか聞いてきます!」
とい言うが早いか、僕たち1-Cの担任の元へ走り去っていった。
「、、、、元気だなぁ」
ポカポカ陽気の中、ハナを見送った僕等は授業の始まるギリギリまでのんびり微睡みを楽しんだ。
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結論から言うと、偵察はOKだった。しかも午後の授業中に行って良いそう。
つまり、これも訓練の一環として担任が認めればできると言うことらしい。
ただ、一応いくつか条件があって、まずは将来的に索敵や気配を消した潜伏が必要となる兵種に限られる。
つまり、偵察兵、狙撃手以外に、遊撃兵が該当する。
遊撃兵は矢面に立って戦うこともできて、奇襲や索敵なども行う。
偵察兵との違いは、偵察兵が移動に特化し、火力はそれほど期待できないのに対して、遊撃兵は戦力としても充分に力を発揮する点だ。
その分移動力は偵察兵に劣るし、後方支援は行わない。あくまで前線で色々やるための兵種だ。
もう一つ大きな条件があって、担任が可能とみなす程度の実力があること。
全くの実力不足では、単に相手の迷惑になるので許可されない。偵察されている相手の練習(偵察に気付くか否か)にもならなければダメなのだ。
ちなみに、担任の許可を得たこういった行為の場合、万が一見つかっても成績の減点とはならないうえ、成功すれば加点される。ただし、見つかって捕まった場合は1週間のトイレ掃除当番が待っている。
だいたい例年、1年生なら半年ほど経った頃から似たような相談が寄せられるので、その頃に説明するそうだ。
すると、ハナはかなり早い段階で相談に行ったことになるな。
ハナの兵種は遊撃兵なので、兵種的には問題ない。
肝心の実力の方であるが、、、これもフォル先生よりお墨付きを得た。
と言うのもハナ、おばあちゃんの国のninjaなる謎の兵種に憧れて、ninjaなる兵種が得意とする気配を消した移動というのをずっと練習していたため、入学時点でその実力だけは抜きんでていたのだ。
反面、銃の扱いは素人そのもので、こちらは当分訓練が必要である。
フォル先生よりお墨付きをもらい、僕の机の前に陣取って計画を話すハナは続ける。
「それで、対戦相手の2-Cは明後日実戦訓練があるそうです。そこで決行するので準備をしておいてください、、、でござる」
その”ござる”ってやつ、忘れるくらいなら無理して付けなくて良いんだよ?
「、、、、、あれ? 準備して? もしかして僕も行くの?」
「もちろん」
ハナは何を今更という顔で僕を見るけれど、初耳ですが。
「ルクス殿は狩猟を生業にしていたので、気配の消し方が上手でしょう? フィル先生も許可してくれましたでござるよ」
「まぁ、多分普通の人よりはうまいとは思うけど、、、」
「というわけで、我々で敵の戦力を丸裸にしてしまいましょう! 、、、あ、ござる」
仕方ないなぁと、同行を了承したところで横からも声がかかった。
「私も一緒に行きたいんだけど、、、ダメかな?」
僕の隣の席の女の子、ソニアが遠慮気味に手をあげていた。




