5)出席番号13番 グラス=リック
今日の日記
今日は有意義な1日だった。学園を散策できたし、チームBの人とも仲良くなれた。チームBでも一番年上のリックさんの事だ。
僕とリックさんは8つも歳が離れていると聞いて驚いた。それでも同じクラスメイトというのは不思議だ。
リックさんの兵種は重装兵。魔力を身にまとい、最前線で僕たちを弾丸から守ってくれる頼もしい兵種。
リックさんは元鍛冶職人さん。そんなリックさんからとてもいい物を貰ったんだ。
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この僕、ルクスが入学してから3日。慣れたとはとても言えないけれど、多少は周囲を見渡す余裕ができた。
今までは授業が終わったらハインツが色々連れていってくれたけど、今日は用事があると先に何処かへ行ってしまった。
そこで僕は、日暮れまでは一人でこの広い学園を散策する事に決めたんだ。
教室がある校舎の先には、兵種棟と言う建物と、研究棟と言う建物がある。
他にも射撃訓練場や講堂、ハインツも何に使っているか知らない建物、それに今は使っていない旧校舎など、それらの場所を巡るだけでも数日かかりそう。
一応、生徒は近づいてはいけない場所には警告タグがついていると言うので、見落とさないように注意しながらぶらぶらしていると、学園内にわざわざ作られた広大な森と、人工の河川に人工の山まである実戦場が近くに見えてきた。
学園のスケールの大きさに少々嘆息しながらも、本能的に緑を求めているのか、僕はそちらの方へフラフラと近づいて行く。森の中は何と無く落ち着くのだ。
と、森のすぐそばまで近づいたところで、ガサガサと藪をかき分ける音がして、僕は思わず身構えた。
もう授業は終わっているので、こんな場所にいるのは僕みたいなもの好きくらいなはず。肩にかけている銃に手をかける。
銃を入れている袋には、申し訳程度だけど薄い鉄板が入っている。ちょっとした弾丸くらいなら弾ける、、、と良いな、位の物だけど。
それでも無いよりはマシなので、僕は銃袋を体の前に出す。
薄暗がりから人影が見える、ドキドキしながら固まっている僕に、
「あれ? ルクス君? こんなところで何してるの?」
現れたのはリックさんだった。
「僕は学園の散策をしていたんだけど、、、リックさんは?」
リックさんは無精髭かおしゃれ髭かギリギリのラインにある顎髭に手を当てながら、困ったところを見られたなと言う顔をした。
「あー、ルクス君。悪いんだけど、ここから出てきた事を内緒にしてくれると助かるんだけど、、、」
「えーっと、、理由にもよりますが、、、」
「あ、もちろん犯罪に関するようなことをしていたんじゃ無いよ。これを採っていたのさ」
と、片手に持っていた布袋を開いてみせる。その中にあったのはキノコだ。
「あ、ワモ茸じゃないですか。美味しいですよね。これ」
僕がそのように答えると、リックさんは嬉しそうに頷く
「お、ルクス君も詳しいね。そうか、田舎では狩猟で暮らしてたって話だったね。実は先日の訓練中に群生地を見つけてね。夕食に一品足そうかと思って」
恥ずかしそうに頭を掻くリックさん。
「そんなことならコソコソしなくても良いのでは?」
「いやー、一応校学園敷地内ににあるものを無断で採っているからね。特別禁止されているとは聞いたことがないけど、なんだかちょっと気まずいじゃないか」
僕よりずっと大人なのに、そのように苦笑するリックさんに、僕は少しおかしくなって笑ってしまった。
「分かりました。内緒にしておきますので、今度僕にも場所を教えてください」と伝えると
「話がわかるね! 任せておきなよ」と厚い胸板をドンと叩いた。
それからリックさんと並んで、校門まで歩きながらお喋り。
「リックさんはなんで学園に入ったんですか?」
「私はね、元々はもう少し北の町の生まれなんだ。そこで鍛治職人をしていた。ところがこの戦争で、町が戦場になったんだ。それで私たちはみんな追い出されてしまってね。まぁ、私は手に職もあったし気楽に構えていたんだけど、甘かったなぁ。僕の町にいた職人達がみんな南に逃げたんだから、当然、職人の数が余るよね、、、」
それから少し悲しげな顔をしてから続ける。
「そこで一旦職人は諦めて、妻と一緒に新しい仕事を始めようとしたのだけど、、、」
「えっリックさんて奥さんいるんですか!?」
「いるよ? 言ってなかったけ?」
これには少し驚いた。学生だから何と無く結婚とかはしていないのかと思った。
「まぁ、それはともかく、あんまり仕事が上手くいかなくてね。なんだかんだでこの街に流れてきたんだけど、ダメ元で適性試験を受けたら合格したんだ。少なくともここなら給金が滞ることもないから、助かるよ」
「へえ、苦労したんですね、、、」
「まぁ、そんな訳でいい歳だけど、君と同じ新入生だから、仲良くしてくれよ」
「はい。もちろん!」
そんな会話をして校門についたところで、リックさんと別れて僕は寮へと戻った。
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翌日、チームBのみんなでお昼を食べ終えてお喋りしていると、リックさんがちょっと離れた場所から手招きをする。
「?」
呼ばれるままに近づくと、「昨日はありがとう」と言って、Yの形をした金属製の物を差し出す。
「これは?」
「スリングショットって言うんだ。発射部分に弾を乗せて引けば、ちょっとした武器になる。持ち手に魔力を通せるから、結構遠距離まで狙える自信作だよ」
「くれるんですか?」
「ああ、職人時代に練習で作ったんだけど、強力にしすぎちゃってね。使いこなせないからそのまま何と無く道具箱に放り込んでおいたのを、昨日ふと思い出したんだ。藪から出てくるのが、、、いい人ばかりとは限らないから」
と笑ってスリングショットを手渡してくる。
「ゴムは新しくしたから、すぐにでも使えるよ!」
「ありがとうございます! 遠慮なくもらいますね」
「ああ、私が持っていても使い道がないから、使ってもらえれば嬉しいよ」
左でスリングショットを掴み、魔弾を生み出してゴムを引いてみる。うん、いい感じだ。
何かお礼がしたいな、、、、
キョロキョロと周囲を見渡すと、上の方にちょうどいいものが見つかった。
中庭にあった巨木に狙いを定めて、立て続けに3発、手を放す。
少ししてからポトポトポトと、こぶし大の木の実が落ちてきた。
それを拾ってから、リックさんに手渡す。
「本当にささやかですけど、これ、サコの実って言うんですが、外皮を剥いて炒めるととても美味しいですよ。美味しくてほとんど鳥に食べられちゃうから、珍しいと思います」
すると、きょとんと僕の行動を見ていたリックさんは
「あ、ああ。ありがとう。へえ、これ食べられるんだ。試してみるよ」と戸惑いながらも受け取る。
そこで
「おーい!! 2人とも! そろそろ教室に戻るよー!」と言うハインツの呼ぶ声がして、僕は慌ててそちらへと急ぐ。
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ルクスが走りゆく背中を見つめていたリックは、先ほどリックがスリングショットで狙った巨木をみる。
こんな木の実がなっているのを初めて知った。目をこらすと、ずっと上の方、樹木の頂点あたりにだけ、それらしい物が見える。
「、、、今の、、、狙って落とした? 、、、、いや、まさか」
リックは今しがたよぎった考えを消すように首を振り、教室へと急ぐのだった。