【二学期〜秋の章〜】46)だいぶ遅れて来た新入生
今日の日記
今日は二学期の始業式だった。
旧校舎から忽然と姿を消した10年前の学園新聞のファイルは未だ見つかってはないない。
一応司書の先生には伝えたけれど、先生も「なんでそんなものを?」と首をかしげるばかりだった。
少なくとも、旧校舎の図書館に置いてあった書物や書類に機密などの載ったものは存在しないと言う。
であれば、誰かが僕らがあのファイルを見ていたことを覗き見ていた?
確かに、僕とリックさんは怪しい二人組を追って鍵を開けたまま図書館、そして旧校舎を出た。
あのあとリックさんが施錠に戻ったけれど、いちいちファイルがあるかまで確認して施錠してはいない。
ファイルを持ち出す可能性が高いのはあのタイミングだろう。
そうなると、僕らが新校舎の図書館で鍵を借りる時からファイルを盗んだ犯人は僕らをつけていた?
僕らが旧校舎でファイルを見ている時に、扉の向こうから様子を伺っていたのだろうか?
いくら考えても分からないし、今日はちょっとそれどころじゃない出来事があったから、まずはその事を書いておかなければ。
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始業式は特に講堂に集まるようなこともなく、普通に教室で始まる。
「サクソンは休み?」僕は後ろの席のロイくんと久しぶりの挨拶を交わしながら聞いた。
サクソンは大体人より早く来て自習などしている。
性格はあれだが、その向上心は単純に偉いなと思う。そんなサクソンが今日は席にいなかった。
夏休暇明けでも相変わらず冷静沈着なロイくんは「ああ、今日帰ってくるらしいよ」とあまり表情を動かさずに答えてくれた。
ロイくん曰く、貴族を中心に例年だいたい遅れてくる生徒がいるそうだ。
確かに、僕らのクラス1-Cでもポツリポツリと空席が見える。
「普通に天候や交通事情とかで遅れる子が多いから、始業式も講堂ではやらないし、貴族はそれを分かっていて今日まで休みのつもりの子も多いって先輩から聞いた」
「そうなんだ。なるほど」
では、サクソン以外の貴族の子、つまりロイくんとマリアが始業式初日からちゃんと出席しているのは偉いと言うべきだろうか。
ロイくんや隣の席のソニアとお喋りしながら担任のフォル先生がくるのを待つ。
きぃ、と小さな音が鳴って教室が静かになる。
いつものようにやる気のなさそうなフォル先生が教室に入ると、一拍おいて「入れ」と扉の方に声をかけた。
フォル先生に促されて教室に入ってきたのは、先日、旧校舎裏で僕が見た2人組の不審者だった。
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「最後まで入学の遅れていた者達だ。2人はレムノス公国からの留学生となる」
フォル先生の言葉を聞いて、教室がざわつく。
レムノス。僕らの住むロザン公国と、敵対しているソルアル公国の東に位置する国。
ロザン、ソルアル、レムノスの3つの国は元は1つの大国であり、遠い昔、3人の兄弟に分割譲渡された歴史を持つ。
ゆえにロザン公国とソルアル公国の戦争は兄弟喧嘩戦争などと呼ばれているのだ。
この戦争においてレムノスは中立を保ち続けて来た。
両国と接する立地ゆえに、レムノスがどちらかに与すれば一方の国は窮地に陥るため、ロザン、ソルアルともにレムノスには強く出ることもなく友好を保っている。
そんなレムノスから軍事学校への留学。ややキナ臭い感じがするのは僕らでもなんとなく分かる。
それゆえのざわつきなのだろう。
しかし、それよりも僕にとっては先日の不審者であることのほうが重要だ。僕はびっくりして右後ろの方に席があるリックさんへ視線を向ける。
リックさんも驚いた顔で、僕に頷いてみせた。間違いない。あの2人だ。
「あー、それじゃあ、2人も挨拶を」
フォル先生に促され、先に女性が一歩前に出る「リヴァル=レフです。兵種は銃撃兵、宜しく」一礼してから、前に垂れた長い髪をかき上げて一歩後ろへ。
次に男性が一歩前に、しかし、顔立ちがものすごくよく似ている。
「リヴァル=ライツ、だ。見てもわかると思うが、コイツとは双子だ。兵種は重装兵、よろしく」
ライツは親指でレフを指してから、一歩後ろへと下がる。。。なんと言うか、軍人っぽい。
「2人はレムノスの軍事学校に所属している。編入手続きで遅れはしたが、お前らも学ぶことは多いと思う。まぁ、仲良くやってくれ」
フォル先生がまとめようとして、はたと止まり、
「そういえばチームだな。まぁ、2学期までにやめたやつもいないから、人数的にマリア、キャトラプへ入れる。いいな」
「え、はい。。。」
「それじゃあ、2人の席は、空いている2つのどちらかを使え。今日はどうせ来ていないやつもいるし、授業もない。他に質問事項がなければ終了する」
そんな風に言ってフォル先生は早々に教室を出てゆく。
残された僕らは、ただポカンと先生の後ろ姿を見送るのだった。
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その後、まぁ、とにかくお昼でも共にして親睦を深めようとなった僕ら。
中庭は日差しも強く、のんびりランチをするにはいささか向かない季節だ。
僕らは連れ立って校舎内にある食堂へと移動した。
「へぇ、じゃあロドンの街にアパートを押さえて通うんだね」ラット君がパンをかじりながら言う。
「ああ、アパートを押さえる方が手続きが簡単だったんだ」
先日僕が話した不審者が目の前の2人だとは思っていないみんなは、レフとライツに屈託なく話しかけている。
例外は僕とリックさん、それに僕の隣の席にいたソニア。ソニアは僕がリックさんへ視線を向けた際のただなならぬ表情を見ており、そこから何か察したようだ。口数少なく様子を見ている。
「レムノスはロドンとは随分違うのでござるか?」
「そうね。私たちもきたばかりだから比べるのは難しいけれど、それほど大きな違いはないと思うわ」
2人の受け答えは如才ない感じで、そんなところも怪しく思えてしまう。
いっそ先日のことを聞いてしまえばいいかもしれないが、もうちょっと相手を観察してからにしたい気持ちもある。
「それで、君たちはなんで留学して来たの?」ハインツが聞きにくいことをズバリと聞く。
「そうね、、、私たちにもよく分からないわ。先ほどフォル先生が仰った通り、私たちは母国の軍事学校に通っていたのだけど、こちらの学園と何かやりとりがあったみたい。6月頃に突然留学の話が降って湧いて、私たちが指名されたの」
「普通、こう言うのってこちら(オーラン)からも、留学生を送ったりするんじゃないの?」フランクも首をかしげるが
「俺たちも分かんねーのよ。まぁ、学費どころか食費や生活費も出してくれるってんで大助かりだったから、喜んで来たけどな」
2人の家はあまり裕福でなく、そのため軍事学校へ入学した経緯があるのだそうだ。
昼食を食べながら、話は次々に広がってゆく。
食後、今日はこのあと授業がない。レフとライツも部屋の荷解きなどがあるとのことで、食堂を出たところで別れた。
僕は2人の姿が見えなくなってから、みんなと少し距離をとってリックさんに「どうしましょうか?」と相談。
そこへソニアがやって来て「説明してもらえる」と聞いてくる。さらに、ハインツが何話しているんだと近寄って来た。
僕は少し悩んで、「夜、2人には話すよ」とだけ伝えた。




