38)ベル家
03.08.31誤植を修正しました。
峠の旧道で野盗に襲われた僕ら。
捕らえた野盗の、その中でも行商人役の男がリーダー格と見て絞りあげた結果、実は通過予定だった街道は土砂崩れなど起きていないことが発覚した。馬車の豪華さを見てカモと踏んで僕達を陥れようとしたのだ。
「あれ? それじゃあ、、、」僕が言いかけたところで、厳しい顔をしたセバスさんが
「宿の主人もグル、ということですね」と言った。土砂崩れの情報は宿からもたらされた。そしてタイミングよく現れた偽の行商人。つまりそう言う事なのだろう。
「こいつら、どうしますか?」護衛の人がセバスさんと相談を始めたので、僕とハインツは一旦自分の馬車へと戻った。
「あ、おつかれさまー! 怪我してない?」
ソニアの声は明るい。ソニアが馬車の中から狙った野盗の手応えから、大した相手ではないと踏んだのだろう。
マリアやハナものんびりした感じで労ってくれた。
「楽勝だったよ!」ハインツが胸を張り、ソニアにお礼を言って短銃を返す。
そんなやりとりをまじまじと見ていた僕の妹、ノリスが
「お兄ちゃん達、、、いつもこんなことしているの?」と少々あきれた声で言ってきた。
いや、いつもこんな事してないよ?
しばらくするとセバスさんが僕らの馬車にやってきた。野盗どもは縛り上げて、馬車に繋いで連れて行くそうだ。
峠を越えてすぐの街で、ベル家の治めるストーラの街まで早馬を飛ばして貰い、野盗の引き渡しおよび野盗と繋がっている宿の主人の対応を行う。ベル家の領内であればこちらで処分しても良いが、峠を境に別の領主の管轄となるため、先方に配慮した形だ。
知らなかったとはいえ隣の領主の娘を襲ったのだから、野盗と結託した宿屋の未来は暗いだろう。
そんなことを思っていると、セバスさんが僕らに向かって深く頭を垂れる。
「この様なことになり申し訳ございません」
「いや、セバスさんのせいじゃないですし」ハインツが返すも、
「もう少し情報を精査してから動くべきでした。どの様な罰でも甘んじて受ける所存でございます」
と言うので僕らは困惑してしまう。そんな中で話をまとめたのはセバスの主人、マリアだ。
「セバス、、、セバスを罰するのなら、旧道を進むことを決めた私も同罪となるのよ?」
その様に言われてしまえば、セバスさんも「いえ、そう言う訳では、、」と言葉をつまらせる。
「被害もなかったし、この話はこれで終わりにしましょう」マリアが宣言すると、セバスさんが胸ポケットからハンカチを出して目元をぬぐい始めた。
「セバスさん!? どうしたんですか? 怪我でもしたんですか!? でござる!」
その様子を見たハナが驚いて声をかけると
「これは失態を、、、お嬢様がご立派になられて、、、嬉しくてつい、、、」
それを聞いたマリアが恥ずかしそうに
「もういいから、、、出発の準備して、早く峠を抜けましょう」と、未だ目元を拭っているセバスさんを馬車から押し出した。
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無事野盗の引き渡しの手続きも終えこの街で一泊する案も出たものの、野盗に襲われたことが実家に伝わればまた大騒ぎだろうと言うことで、多少時間が遅くなってもストーラの街への到着を優先することにした。
その後の道中では大きなトラブルもなく、日も沈む頃にはストーラの街が見えてくる。
学園のあるロドンの街ほどではないけれど、大きくて、ロドンの街よりもずっとのんびりた雰囲気の牧歌的な街だ。
ちょうど夕食時間に差し掛かっており人の往来もそれなりにある。
点在するお店の入り口には観葉植物で模られたゲートが作られ、日が沈むとゲートの頂点に据えられたランタンに火が灯される。
その明かりが各店舗のゲートを優しく照らし、幻想的な雰囲気を作り出していた。
「綺麗」ノリスが呆けた風に呟く。僕は、これを見せてあげることが出来ただけで連れてきたよかったなと思う。
ノリスの病気は快方に向かっているとはいえ、今日明日で治ると言うものではない。もう少し時間が必要だ。
最初はここに連れてくるのもちょっと躊躇したけど、リタさんも来てくれるし、何より僕らが遊びに行っている間留守番はかわいそうだ。
「あれは”幸運のゲート”と言うの。このゲートをくぐって入った場所には幸運があると言われているの」
マリアがノリスに説明してあげると
「じゃあ、この街には幸運がたくさんあるんだね!」と楽しそうに返して、年少の2人の会話に他のメンバーはほっこりする。
そんな風に街並みを楽しみながら進むと目の前に大きなお屋敷が見えて来た。
遠くからでもロドンの街でマリアが住んでいた家とは比べ物にならない大きさだ。
「そりゃあ、ベル家のお屋敷だもの。大きいに決まっているさ」ハインツが言ってマリアが少し恥ずかしそうにする。
このベル家、近年は大きな功績もなく、サクソンの実家の様な戦争で功績をあげて幅を利かせている貴族に後塵を拝しているものの、元はロザン公国の5大貴族に数えられた大貴族。
この西方国家との境界となるの重要な領地を任されていることからも、公主から信任厚い名家なのだとハインツが滔々と説明してくれた。
「だからさ、本来はうちのクラスの出席番号1はマリアのものなんだよ。それをサクソンの家がごり押しして来たんだ」
「サクソンの家はそんなに力を持っているの?」
「うん。サクソンの家パラディ家は有名な騎士を出して、大きな勝利の立役者にもなっている。最近急に存在感を増した印象だね」
あー、だからサクソンもあんな感じなのか。
そんなことを思っているうちに、いよいよマリアの実家のお屋敷の門が開き、馬車がその中へと滑り込んで行った。
僕たちが馬車を降りると、玄関先の石畳の両側にはずらりとお手伝いさんが並ぶ。その先、玄関には7人の人影。
その人影の1人がマリアを確認すると飛び出して走り寄って来た。
「ああ! 私の可愛いマリア!! 元気だった!? 辛いことはない!?」
マリアを抱きしめながら矢継ぎ早に質問を投げかける女性。
「ママ! うん! 元気にやってるよ」
マリアも母にぎゅっとハグをする。
しばらくの母娘の再会を眺めていた僕らに、マリアの父と思われる細身で立派な髭をたくわえた男性が近づいてくる。
「私はマリアの父、ゴーウェルです。遠路はるばるようこそ。歓迎いたしますぞ」
「ご丁寧にありがとうございます。ご招待いただき有難うございます。数日間お世話になります」
ハインツがソツなく挨拶を返して、僕、ソニア、ハナ、ノリスもそれに習う。
「貴方達がマリアのご学友か。いつもマリアがお世話になっている」
そのように言ったのは、ゴーウェルさんの隣にやって来た青年。マリアのお兄さんだ。その後ろにマリアのお姉さんとその伴侶が立っている。
僕らの挨拶を聞いていたマリアが母と離れて僕らの前に来た。
「お父様! 私のクラスメイトで同じチームの仲間です! みんな凄いんですよ! 私たち、最初の対抗戦で2年生チームに勝ったんです!」
「ああ、ああ。セバスから聞いているとも。とても驚いたよ。さぁ、こんなところで話すのもなんだ。さ、詳しい武勇伝は後日ゆっくりと聞こう」
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今日の日記
色々あった1日だった。疲れた。
僕が日記を書いているこの部屋。ベル家の客室らしいのだけど、広すぎて落ち着かない。
ゴーウェルさん達も僕らの疲労を考え、詳しい話は明日ということで、旅の汚れを落として簡単な(僕には十分に豪華だったけど)夕食をすませると早々に客室に用意してくれた。
明日は館でのんびりしながら、マリアを中心に学園の話をする事になる。
せっかくの夏休暇とことんのんびりしてやるぞ!




